2020 Fiscal Year Research-status Report
欧州諸国におけるミュゼ・ソシアルの建築家によるユルバニスムに関する研究
Project/Area Number |
20K04907
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (70381457)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | レオン・ジョスリー / アルベール・パランティ / フランス都市計画家協会 / 都市・農村衛生部会 / コルニュデ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究実績は次の3点である。第1は、建築家、造園家、測量士らによる都市計画事業、20世紀の新たな都市計画ユルバニスムの実態、及び当時の評価の把握である。本調査は、ミュゼ・ソシアルの月刊機関誌3誌に掲載された都市・農村衛生部会の会議及び集会の議事録のうち、研究対象としたアルフレッド・アガシュらの記録に基づくもので、調査対象の期間は、同部会の創設年である1908年から第二次大戦前の1938年までとした。次の第2点目と第3点目はフランス都市計画家協会の設立者10名のうちの2名、レオン・ジョスリーとアルベール・パランティが手掛けた都市計画の功績に関する考察である。第2は、ジョスリーが描いた国立美術学校在学中の人民広場(1902)、公共広場(1903)、その後のバルセロナ(1904)、ベルリン(1909)、パリ(1919)、モン=ドール(1919-25)、アンカラ(1927)、グルノーブル(1922)、タルブ(1923-27)、ヴィッテル(1923-28)、トゥルーズ(1920-32)、ポー(1925-33)、カルカッソンヌ(1924-34)の都市計画案を調査し、都市に対する関心の芽生え、設計競技における研鑽、コルニュデ法に基づいた提案という3段階を経て、20世紀前半の新たな都市計画ユルバニスムが実際に国内の地方都市に反映されたことを明らかにした点である。第3は、パランティが、アガシュらと協働でパリ(1919)、ジャン=マルセル・オビュルタンとベオグラード(1922)の設計競技で計画案を描いた後、ボーヴェ(1927)とロリアン(1934)でコルニュデ法に基づく案を残すとともに、同部会における活動として会議への頻繁の出席、発言、報告とともに、1913年ヘント博、1922年マルセイユ博、1937年パリ博、1941年サロンで統括、担当、出展を担う形で功績を残したことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、国内を対象にしたコルニュデ法と本法に基づく計画案、20世紀前半の欧州諸国におけるフランスによる新たな都市計画の史実、ミュゼ・ソシアルの建築家、造園家、測量士らの功績を解明することにある。本研究期間中の主な考察対象は、当初の研究計画ではジャン=クロード=ニコラ・フォレスティエ、アルフレッド・アガシュ、ジャック・グレベールらを筆頭に掲げ、その推進役を担ったミュゼ・ソシアルの建築家らが国内を含む欧州諸国で手掛けた都市計画であるとしていた。 ミュゼ・ソシアルの機関誌に基づき、研究対象となる建築家らによる事業の概要と20世紀の新たな都市計画の実態及び当時の評価の把握は、欧州諸国を対象とした事業期間中に遂行する研究ばかりでなくユルバニスムを考察の対象とした研究対象の全体像を把握する上で非常に重要な当初の課題であり、初年度に着手できた実績は今後の研究遂行上、大きな成果であると考える。また研究成果の1つに掲げたこうした建築家、造園家、測量士らの履歴・作品歴の作成という点でも、効率的に調査を進める上で必要であると言える。 一方、当初の研究計画で建築家らの功績の解明の対象に掲げた者は上記の通りであるが、実地調査が必要となる者は次年度以降の課題としつつ、初年度の研究対象は上記の通り、レオン・ジョスリーとアルベール・パランティにした。両者ともに建築作品、各都市における都市計画、ミュゼ・ソシアルにおける活動に関する考察を行い、新たな都市計画ユルバニスムの解明につながる功績を捉えており、こうした観点からある一定の研究実績が残されたものと考える。またジョスリーとパランティばかりでなく、上記の3名についても履歴・作品歴の作成を進めており、特にアガシュについては国内外の一部の都市を除き、ある一定の調査が進んでいる。 以上のように、現在までの進捗状況を鑑み、上記の区分に判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、上記の進捗状況を踏まえつつ、次の3点に注力することを検討した。第1は、当初の研究計画で掲げた通り、ミュゼ・ソシアルの建築家、造園家、測量士による戦間期フランスの建築・都市に関する新知見を提示するために、建築家らの履歴・作品歴の完成を目指す。本研究で扱う建築家らは、国内では地方において、また国外では欧州ばかりでなく大陸を跨ぎ活躍したため、資料が散逸しており、建築家らそれぞれの全体像の把握が進んでいない。こうした観点からもミュゼ・ソシアルの機関紙に基づいた履歴・作品に関する調査は、本研究の推進ばかりでなく、20世紀前半のフランス建築史に新たな一面を書き加える基礎資料になりうるものであるという点でも意義があり、早急に完成させる必要がある。 第2は、当初の研究計画に則り、国内事業を対象にコルニュデ法に関する考察である。本法はミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会の創設後、議論が始まり、第一次大戦以前のパリの都市計画、機関紙に記された議事録、アンリ・プロストの史料、内田文庫の資料を用いて、企画から草稿、1919年の制定、1924年の改定までの変遷を解明するもので、本年度内の着手を目指している。 第3は、当初の研究計画に立ち返り、建築家らの功績の解明の対象に掲げた者のうち、フォレスティエと同じ元が造園家であるエドゥアール・ルドンとアルフレッド・アガシュに注力する計画に関してである。ルドンに関する資料は入手が進んでおり、現地調査なしに研究遂行が可能な状態にあるため、今年度の主な考察対象とする。アルフレッド・アガシュに関する考察は現地調査が必要となる都市が残されているため、ミュゼ・ソシアルにおける活動を中心に考察を進める予定である。尚、グレベールについてはマルセイユの史料を入手しているが、現地調査が可能な場合に、同年度の考察対象とすることを検討している。
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Causes of Carryover |
本研究は、20世紀前半フランスにおいてミュゼ・ソシアルに所属する建築家、造園家、測量士が提案・実施した科学に基づく新たな都市計画、ユルバニスムを解明するための欧州諸国における文献調査と実地調査である。当初の研究計画における主な必要経費のうち主要なものは、夏季休業期間中および春季休業期間中それぞれ3週間程度の外国出張に要する旅費、研究成果を発表するための国内出張の旅費、本研究で使用する図書、雑誌、書類などの研究資料の購入に必要な物品費、調査研究で使用する機材やソフトなどの更新に必要な費用である。また本研究の遂行に必要な資料整理等の業務を行った学生に対する謝金についても一定額を計上している。 昨年度実施予定であった夏季休業期間中および春季休業期間中の外国出張は、実施が困難であったため、文献調査のうち国内で入手可能な図書、雑誌、書類などの研究資料に基づく調査研究を遂行した。次年度使用額が生じた主たる理由は、上記の外国出張および国内出張に必要な経費にある。今年度の使用計画は次の通りである。出張が可能な場合、次年度使用額を含む旅費を用いて、本研究の遂行に必要な外国出張と国内出張を実施する予定である。出張が困難な場合、その一部を利用して本研究の遂行に必要な図書等の研究資料の購入し、その残額を次年度使用額に計上し、外国出張及び国内出張の経費に割り当てる予定である。
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