2021 Fiscal Year Research-status Report
欧州諸国におけるミュゼ・ソシアルの建築家によるユルバニスムに関する研究
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20K04907
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (70381457)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ジャン=クロード=ニコラ・フォレスティエ / エドゥアール・ルドン / アルフレッド・アガシュ / アンドレ・ベラール / フランス都市計画家協会 / 都市・農村衛生部会 / コルニュデ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究計画は、第1にミュゼ・ソシアルの建築家・造園家・測量士による戦間期フランスの建築・都市に関する新知見を提示するために、建築家らの履歴・作品歴の完成させること、第2にミュゼ・ソシアルの建築家らによる国内事業を対象としたコルニュデ法に関する考察、第3に造園家ジャン=クロード=ニコラ・フォレスティエとエドゥアール・ルドン、建築家アルフレッド・アガシュの事業に関する考察の3点であった。第1点目はユルバニスムの萌芽期における建築家らの功績を解明し、20世紀前半のフランス近代建築史における新たな一面を描き出すために不可欠な基礎資料になる得るもので、大陸をまたぎ、建築と都市に貢献した建築家らの散逸した資料と、ミュゼ・ソシアルの機関紙に基づき履歴・作品歴・事業暦に関する調査を進めている。第2点目は、ミュゼ・ソシアルの機関紙、アンリ・プロスト史料、内田文庫ほかを用いて、第一次大戦以前、ミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会が創設された後、国内外の事業を踏まえた上で、企画から草稿、法案までの経緯を捉えるとともに、1919年のフランス初の都市計画法の制定、さらに1924年の改定に至る一連の変遷の解明を目指したものである。第3点目は造園家を中心に、建築家以外の技量を有した者たちに焦点を当て、フォレスティエら3名の履歴・作品歴・事業暦を踏まえた上で、フランス都市計画に残した功績を解明するものである。3名ともに大陸をまたぎ、国内外で事業を展開した建築家、都市計画家、造園家で、本年度の考察の対象は、そのうち主に欧州の事業を中心にしたものである。本研究課題は、さらに上記3点の研究計画に、ジャック・グレベールやアンドレ・ベラールらによる国内外の事業に関する考察を加えて、ミュゼ・ソシアルの建築家らによる戦間期フランス都市計画の一端を解明することを試みるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の主な研究計画は上記の通り、全3点にまとめることができる。第1点目の進捗状況は次の通りである。今年度は最も確度の高いミュゼ・ソシアルの機関紙を用いて、1908年にミュゼ・ソシアルに都市・農村衛生部会が創設された後、建築家・都市計画家・造園家を中心に、国内外で手がけた都市計画、計画案と実施案の両者を対象に全体像の把握に努めた。本資料を用いた概要の把握はほぼ完了しているが、さらに補足調査を進めて、より体系的な全容解明を目指す必要がある。第2点目の進捗状況は、主に資料の収集とその整理にとどまっている。アンリ・プロスト史料の中に企画から草稿に至るものが含まれていることは把握済みであるが、機関紙や議事録と照合する考察には至っていない。また、内田文庫に内務省における邦訳も残されており、これら一連の資料を用いて考察を進める必要がある。 第3点目の進捗状況は次の通りである。本年度の成果は、造園家による都市計画解明の対象としてルドンを選択し、国内外で生涯に手掛けた公園、庭園、スポーツ施設、都市計画案など幅広く把握するとともに、公有の公園から私有の庭園の順に事業を展開したことと、ランス、パリ、国外へと事業を展開して、20世紀前半フランス都市計画に尽力した功績を明らかにした。一方、フォレスティエとアガシュに関しては、資料の収集にとどまっている。両者の事業は国内外に広く点在しているが、本研究課題の対象は欧州に限ったものである。主な研究成果は上記の3点であるが、これらの研究課題以外に本年度残した実績に、アンドレ・ベラールの都市計画事業に関する考察がある。フランスの土地開発会社と建築家協会主催のグアヤキル新都市国際設計競技案(1907)におけるベラール案は、レオン・ジョスリーによるバルセロナの都市計画案と同様に、科学的な設計手法の萌芽が見られることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目的は、都市・農村衛生部会で自らの事業報告を行った建築家らが国内及び欧州諸国で手がけた都市計画を中心に史実と功績を明らかにすることにある。初年度はレオン・ジョスリーとアルベール・パランティに着目した。昨年度はミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会の建築家らの履歴・作品歴・事業暦のまとめと、ルドン、ベラールを考察の対象とし、その史実を把握するとともに、フランス都市計画に残した功績を明らかにした。本年度は本研究課題に最終年度に当たり、昨年度実施が困難であった研究課題に取り組むとともに、最終年度の課題に着手する。昨年度の主な課題のうちは、第二点目のミュゼ・ソシアルの建築家らによる国内事業を対象としたコルニュデ法に関する考察と、第三点目のフォレスティエとアガシュを対象とした実例に関する考察があり、アガシュについてはオーストラリアの首都キャンベラの設計競技案を含む考察が求められている。また最終年度の主な考察対象にグレベールによるマルセイユの都市計画がある。 本年度の前半は、プロスト史料とミュゼ・ソシアルの機関紙、議会議事録等に基づきコルニュデ法の企画から草稿、さらに法案の制定に至るまでの経緯と内容の変遷を解明する予定である。後半の考察対象は、建築家・都市計画家・造園家による実例である。具体例はアガシュによるキャンベラ(1912)とダンケルク(1913)、フォレスティエによるパリと著作に関する調査、グレベールによるマルセイユ(1933)の順に進める予定である。グレベールについては、フランス都市計画家協会を創設したプロストらとは異なるため、アメリカ、特にフィラデルフィアの設計競技における受賞以後、国内外の都市計画案も含めて捉え直す必要がある。本年度、これら一連の研究成果に基づき、都市・農村衛生部会の建築家らが残した欧州諸国における功績とその役割を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本研究課題は、20世紀前半にフランスでミュゼ・ソシアルに所属する建築家、造園家、測量士が提案・実施した科学に基づく新たな都市計画、ユルバニスムを解明するために、欧州諸国を中心に事業展開したものに関する文献調査と実地調査を組み合わせたものである。最初の研究計画で主に必要になる経費のうち主なものは、夏季休業期間中および春季休業期間中それぞれ3週間程度の外国出張に要する旅費、研究成果を発表するための国内出張の旅費、本研究で使用する図書、雑誌、書類などの研究資料の購入に必要な物品費、調査研究で使用する機材やソフトなどの更新に必要な費用であった。さらに本研究を遂行するに当たり、必要になる資料整理等の業務を行った学生に対する謝金についても一定額を計上する必要が生じた。昨年度は一昨年度に引き続き、実施予定であった夏季休業期間中と春季休業期間中における外国出張は実施できなかったため、文献調査のうち国内で入手可能な図書、雑誌、書類などの研究資料に基づく調査研究を遂行した。次年度使用額が生じた主な理由は、外国出張および国内出張に必要な経費を計上していたものに当たる。出張が可能な場合、次年度使用額を含む旅費で、本研究の遂行に必要な外国出張と国内出張を実施する予定である。困難な場合、その一部で本研究の遂行に必要な図書等の研究資料の購入し、その残額を次年度使用額に計上し、両出張の経費に割り当てる予定である。
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