2023 Fiscal Year Research-status Report
欧州諸国におけるミュゼ・ソシアルの建築家によるユルバニスムに関する研究
Project/Area Number |
20K04907
|
Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
三田村 哲哉 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (70381457)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | エルネスト・エブラール / ジャン=クロード=ニコラ・フォレスティ / アルフレッド・アガシュ / ジャック・グレベール / 都市・農村衛生部会 / コルニュデ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績は、昨年度の今後の推進方策に沿うと、次の3点にまとめることができる。第1はミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会における議論の把握である。こちらは、本部会の創設年である1908年から、第二次大戦が開戦した1939年までに開催された200回を超える審議を考察の対象としたもので、政治家、建築家、造園家、測量士らの履歴・作品歴・事業暦とともに、審議への出席者、主題、および内容の把握に努めた。主題はパリ城壁、空地、公園、道路、法制、下水道、国外事業、田園都市、農業宮、博覧会、展覧会、建築家ら自身の事業報告など、史実と照合し、20世紀前半の新たな都市計画、ユルバニスムの一端を明らかにする試みで、完了の目途がつく段階にある。第2は国内事業を対象にしたものである。フランスで最初の都市計画法であるコルニュデ法に関する検討は、都市・農村衛生部会で進められた。本課題は、当初の研究計画に沿い、ミュゼ・ソシアルの機関紙に基づき考察を進めるとともに、アンリ・プロスト史料のほか、1925年グルノーブル博など、第一次大戦以前の検討から1919年の制定および1924年の改定までを視野に入れて、その内容及び検討過程の解明を進めている。この課題は、当初の想定をはるかに上回る資料と対象が明らかになり、研究計画以上の成果が期待できるが、その分、推進状況はやや遅れた段階にある。第3は、都市・農村衛生部会における建築家、造園家、測量士が手がけた都市計画に関する考察である。本年度の実績は、文献調査に基づきダンケルク(1913)とマルセイユ(1933)を、実地調査に基づき前年度主題としたエブラールによる最初の現地対象スパラト(1912)とテッサロニキ(1917)考察の対象とし、前者は両都市における都市計画の概要、後者は歴代の建築家による旧・宮殿の復元史と大火後の復興計画の概要を把握したことである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現在までの進捗状況は、本年度の研究課題の概要に示した通り、全3点の実績があるものの、予定通りに完了したものもあるが、後述の通り、実地調査の状況を鑑みると、区分についてはやや遅れているとせざるを得ない。第1の課題、ミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会における議論の把握では、建築家・造園家・測量士らの履歴、作品歴、事業暦に関する考察は完了したものの、パリ城壁、空地、公園、道路、法制など史実との照合、特に第2の課題で重要なコルニュデ法については、アンリ・プロスト史料など、豊富な資料により、成果が期待されるが、その一方で多くの時間を要している。第2の課題は第1の課題で触れた通り、当初の研究計画に沿い、ミュゼ・ソシアルの機関紙に基づいた考察を進めている。都市・農村衛生部会の建築家らを中心に推進された第一次大戦以前のコルニュデ法の検討のみならず、1919年の制定から1924年の改定後、さらに1925グルノーブル博などの、その後の実施状況についても一部焦点を当てたことにより、進捗状況にやや遅れが生じている。本研究課題を推進するに当たり、最も重要なのが第3の課題、実地調査に基づいたものである。上記の通り、今年度スパラト(1912)とテッサロニキ(1917)における実地調査が実現できたが、当初の研究計画と比較すると遅れている。両者ともにエブラールによる事業で、研究計画に挙げたアガシュらによるダンケルク(1913)とマルセイユ(1933)については主に文献調査を進めた。エブラール、アガシュらによる各都市における都市計画に関する研究は、建築家毎に国内外両者について考察の対象とすることが求められるため、アガシュやグレベールらを対象とした実地調査に基づく都市計画に関する考察や次年度も継続が求められる。両建築家の事業については、次年度に可能な限り、実施調査の成果を加味できるように努める。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、現在までの進捗状況に基づいて、次の3点とする。第1はミュゼ・ソシアルにおける都市・農村衛生部会の建築家・造園家・測量士らの履歴・作品歴・事業暦に基づき、1908年から1939年までに開催された審議内容の解明と史実との照合である。遅れを取っているのは、主にコルニュデ法に関する部分で、本法制定の背景にあるパリの城壁、空地、公園、道路などの課題を踏まえつつ、その内容と経緯を照らし合わせることによって、ユルバニスム萌芽期における都市計画の実態の一端を明らかにすることを目指す。第2はコルニュデ法を考察の対象としたものである。先述の通り、本研究に必要な資料や内容は、当初の予定を上回ったため、豊富な資料と対象を踏まえた上で、その後の実施状況を含めた考察を進める予定である。尚、1919年の制定および1924年の改定までの検討内容の変遷を明らかにするという点については、これまで通り、変更はない。第3は、国内外で都市・農村衛生部会の建築家・造園家・測量士が手がけた都市計画に関する考察である。本課題は、実地調査が必要であるため、今後の研究の推進方策に挙げた3点の中でも遅れている。当初、研究対象としたジョスリー以降、本課題については文献調査に基づき成果を残してきたが、昨年度はエブラールに焦点を当てて、2都市の実地調査を実施した。今後の実地調査の推進方策は、フォレスティエやグレベールら複数の建築家に焦点を当てるのではなく、研究の推進が遅れているアガシュに焦点を当てて、国内外の都市における都市計画の概要と変遷を明らかにすることを目指す。アガシュについてはパリのほかにダンケルク(1913)についてもすでに進められているため、当初の研究計画に立ち返り、国外の一都市として、アガシュが注力したポルトガルの都市計画を加える形で、今後の研究の推進方策を検討している。
|
Causes of Carryover |
本研究課題は、20世紀前半のフランスでミュゼ・ソシアルの都市・農村衛生部会に所属した建築家・造園家・測量士らが提案・実施した、19世紀の都市改造とは異なる、科学に基づいた新たな都市計画、ユルバニスムを解明するものである。その対象は主として、欧州諸国を中心に事業が展開されたものとする。また研究の方法は文献調査と実地調査を組み合わせたもので、後者の実施の可否が見通せない状況が、これまで研究期間中全体に渡り続いており、毎年度研究が予定通りに潤滑に進められなかった点が、次年度使用額が生じた最大の要因である。昨年度から徐々に後者の実施が進められるようになったため、こうした点を鑑みつつ、研究計画に基づき、本研究課題を推進している。当初の研究計画では、主に必要な経費には、夏季休業期間中および春季休業期間中それぞれに実施する外国出張に要する旅費、研究成果を発表するための国内出張の旅費、本研究で使用する図書や雑誌、書類などの研究資料の購入に必要な物品費、調査研究で使用する機材等の更新に必要な経費が挙げており、この使用計画に基づいて研究を推進している。次年度使用額が生じた主な理由は、本研究課題の遂行を効率的に推進するために、外国出張に必要な経費を計上したからである。出張が可能な場合には、次年度使用額に含まれた旅費で、本研究に必要になる外国出張を実施する予定である。
|