2021 Fiscal Year Research-status Report
人工市場に基づいた流動性リスク要因調査と評価環境の開発
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20K04977
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
八木 勲 工学院大学, 情報学部(情報工学部), 教授 (10457145)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人工市場 / 金融市場 / 市場流動性 / メイカー・テイカー制 / マルチエージェントシステム / エージェントシミュレーション / 社会シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は市場制度の一つである「メイカー・テイカー制」が市場流動性に与える影響について調査を行った.メイカー・テイカー制とは,市場では約定した注文に対して,売買価格を 指定し市場に注文を提供した状態で待機していた注文(指値注文)側(こちらをメイカーと呼ぶ)にリベート(負の売買手数料)を支払い,その指値注文と売買成立した注文(成行注文)側(こちらをテイカーと呼ぶ)から手数料を取る制度で,リベートを得ようとするメイカーによって注文が増え,他の取引所より円滑な取引が期待できることを期待した投資家が増えることで流動性が高くなると言われている.しかし,手数料が高すぎるとテイカーの参入は増えないかもしれず,その結果流動性はそれほど高くならないかもしれない.そこで本年度は「メイカー・テイカー制」が市場流動性にどのような影響を与えるかを人工市場を用いて観察した.その結果,メイカー・テイカー制の導入は,Tightness,Resiliency,Depth の観点で市場流動性が向上する可能性があることも確認できた.しかし,マーケット・インパクトの減少分よりもテイカーの手数料の増加分の方が大きく(=取引コストが増大),結果としてアルゴリズムエージェントは高い購入価格で購入させられてしまっていることが実験結果より明らかになった. 以上より,本年度の成果としては,市場制度の一つであるメイカー・テイカー制が本質的に市場流動性を向上させる傾向にあること,メイカー・テイカー制を導入するとテイカーの取引コストが増加する可能性があること,の2つが確認できたことである.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金融市場制度について実務家である研究協力者から的確な助言があったため,的確なシミュレーションモデルを構築でき,その結果,創発的知見を得ることができたため.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き市場制度と市場流動性について検討していく.具体的には,メイカー・テイカー制の市場を利用して裁定取引を行う業者に焦点を当て,彼らの存在が市場流動性に何らかの影響を与えるのか否かを人工市場を用いて確認する.予想では本年度と類似した傾向になると考えられるが,一方で裁定取引をするためのもう片方の(メイカー・テイカー制を採用していない)市場に悪影響を与えてしまうと,裁定取引が成立せずに結果的に市場流動性を下げる可能性も否定できない.本年度はそのトレードオフの関係について深く分析していく予定である.
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Causes of Carryover |
コロナ禍により当初予定していた国際会議の現地開催が不可能となったため旅費がかからなくなったため.しかし業績発表の場を国際会議からオープンアクセス型の論文誌に掲載するようシフトしたことで,費用発生が次年度にずれ込む予定である.その結果,今年度未使用であった経費はそのまま次年度消化される予定である.
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Research Products
(7 results)