2020 Fiscal Year Research-status Report
Earthquake Response Prediction for Large-scale Low-rise Buildings Based on Microtremor and Earthquake Measurements
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20K05027
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 芳樹 京都大学, 防災研究所, 教授 (70416866)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大規模低層建物 / 商業建物 / 地震被災度即時判定法 / 吹抜 / 微動 / モード同定 / 地震応答解析 / 並進ねじれ振動の連成 |
Outline of Annual Research Achievements |
振動計測記録に基づいて建物の地震被災度を即時判定する方法は、高層建物ではほぼ確立されている一方、不特定多数が利用する大規模低層商業建物では全く確立されていない。その主な理由としては、(1)大規模低層商業建物の振動特性が、複雑な形、面的広がり、吹抜空間、複合用途などに起因してきわめて複雑であること、(2)現在の建築基準法がこのような建物の設計に振動解析を要求していないため、振動特性が設計段階でよく把握されていないこと、(3)それにもかかわらず振動計測がほとんど行われていないこと、の3点が挙げられる。 本研究の目的は、大規模低層建物の地震時の揺れを予測するために、微動計測情報のみを用いて建物の地震応答解析モデルを構築する方法を提案し、その妥当性を検証することである。大規模低層商業建物の地震被災度が即時判定できれば、建物が安全と判断された場合に建物を避難所として提供したり、店舗に残された商品を救援物質に役立てたりすることが可能になる。 初年度は、不明な点が多い大規模低層商業建物の振動特性を、一日程度の簡易な微動計測のみで評価する方法を確立すると同時に、このような建物に共通かつ固有の振動特性を微動計測記録から抽出して整理した。次に、微動計測から得られた振動特性を用いて、地震応答解析モデルを構築する基礎理論を展開し、設計図面や構造計算書がなくても建物の地震応答解析を可能とする方法の考え方を簡易なモデルで検証した。一日程度の微動計測で解析モデルを構築できる提案手法は、モデル作成の労力を大幅に低減し、大規模低層建物の地震応答予測の実用性を、モデル作成の観点から飛躍的に向上させることができる。設計情報がない建物でも地震応答解析モデルの構築が可能となり、モデル作成が設計情報から解放されることになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、大規模低層商業建物6棟の微動計測記録を分析して、この種の建物に固有の振動特性をモード同定法により明らかにした。その結果、(1)設計で仮定されている1次固有周期と微動時の1次固有周期の乖離が、高層建物に比較して大きいこと、(2)建物の平面形状に起因して並進振動とねじれ振動が連動していること、(3)建物の振動特性を複雑化させないために、建物をいくつかの部分構造に分けるエキスパンションジョイントは、微動のような小さな揺れでも機能していること、(4)吹抜空間、天窓などの影響により、高層建物の振動解析モデルでよく仮定されている剛床仮定が成立しないこと、(5)階高があり壁の少ない大空間では、局所的に大きく揺れること、という共通の性質を抽出することができた。また、実建物の微動計測を通じて、多くの計測器を所有していなくても,限られた数の計測器の配置換えで、建物全体の振動特性を有効に引き出す手法を確立することができた。 上記で得た建物の振動モード情報のみで地震応答予測モデルを構築する方法を提案して、微動計測によって得た建物の振動特性を地震時の揺れの予測に結び付ける基本的な考え方を提示した。等価線形という制約はあるものの、簡易なモデルによる数値解析の検討から、モデル構築の基本となる考え方が、建物で微動計測した多数の点における地震時の揺れの予測に役立つことが明らかになった。 大規模低層建物6棟に共通に見られた振動特性と、微動計測から設計情報を介さずに地震応答解析モデルを作成する方法は、2編の審査論文として執筆し、すでに掲載されている。
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Strategy for Future Research Activity |
微動から得た建物の振動特性は、あくまでも建物の揺れが小さい場合の特性であるから、評価した振動特性の中大地震時に対応する補正が必要である。微動計測は、観測ノイズの影響を受け易い。その影響を、評価値の平均化と平滑化で対応できることは実計測で明らかになったが、それでも振動特性の変動は残る。そのため、微動と地震による振動を結び付けるために、建物の等価モード特性の振幅依存性などを地震応答解析モデルに考慮していく。次に、基本的な考え方を示した振動解析モデルの構築方法の妥当性を、より複雑なモデルで検討し、適宜、手法の高度化を検討する必要がある。 新型コロナウィルス感染症対策の影響を受けて、不特定多数が利用する大規模低層商業建物で、新たな振動計測の許可を所有者から得ることが困難になっている。対象建物を計測許可が得易い大学構内の複雑な形状の建物などにも変更して、大規模低層建物の枠組みを拡げる可能性がある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症による外出自粛の影響により、当初予定し、事前に建物所有企業から計測許可を得ていた商業建物の微動計測の一部が実施不可能になった。当初予定していた学会発表も中止と延期が多く、その結果、旅費の支出は予算よりも大幅に少なくなった。現時点で延期になっている学会発表は、第2年度以降、予算執行が遅れて行われる見込みである。
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Research Products
(2 results)