2022 Fiscal Year Research-status Report
Pseudogap Engineering of Ru-based Thermoelectric Heusler Compounds
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20K05060
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
西野 洋一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50198488)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮崎 秀俊 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10548960)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ホイスラー合金 / 熱電変換材料 / 擬ギャップ / ゼーベック効果 / 電子構造 / 元素置換 / 非化学量論組成 / 熱伝導率 |
Outline of Annual Research Achievements |
擬ギャップ系ホイスラー化合物について、元素置換や非化学量論効果を利用して擬ギャップ内のフェルミ準位を最適化することで熱電性能の向上を図った結果、以下の成果が得られた。 1. Ru2VAlは典型的な擬ギャップ系であり、第一原理計算によると、n型の出力因子はFe2VAlに比べて小さいが、p型の出力因子は同程度である。また、赤外分光測定による反射率は0.03 eVと0.2 eVで急激に変化しており、擬ギャップのエネルギー幅はFe2VAlよりも広いことが示唆され、バンド計算と一致する。そのため、Fe2VAlと比較してより高温で高い熱電性能が期待できる。 2. Hf置換したRu2Ti1-xHfxSi合金では、x=0.12以下の組成範囲でL21単相となり、格子定数はHf組成とともにほぼ直線的に増加する。HfはTiと同族元素のため、Hf置換してもRu2TiSiと同じくp型であり、ゼーベック係数や電気抵抗率もRu2TiSiとほぼ同程度である。また、熱伝導率はHf置換とともに減少しており、x=0.12の焼結合金では300 Kで10 W/mKを示し、Ru2TiSiの半分程度となる。その結果、無次元性能指数は1000 KでZT=0.54に達しており、Ru2TiSiよりも約30%向上した。 3. Ta置換したFe2V1-xTaxAl合金において、X線回折(XRD)による格子定数から求めた平均原子間距離はTa置換量とともに増加するのに対して、X線吸収微細構造(XAFS)解析によるTa-Fe原子間距離はTa置換量によらず変化しない。この結果は、Ta置換によって生じた局所的な格子歪はTa置換量の増加とともに徐々に緩和することを示唆する。少ない置換量では大きな局所歪によって熱伝導率は大幅に低減するが、置換量の増加とともに格子歪が緩和すると同時に、質量差の効果により徐々に格子熱伝導率が低減している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Fe2VAlの熱電特性に及ぼすFe/V非化学量論効果を明らかにするために、角度分解硬X線光電子分光法を用いてFe2-xV1+xAl合金のバルク価電子帯電子構造を調べた。徐冷したFe2VAl (x=0) では、フェルミ準位EF付近の価電子帯スペクトルは第一原理計算による深い擬ギャップの予想とよく一致する。一方、今回のエネルギー分解能では、徐冷した非化学量論組成Fe2.1V0.9Alや急冷したFe2VAlについてGGA-DFT計算で予測されるEF付近のピーク構造を明確に示すことはできなかったが、価電子帯が非剛体バンド的にシフトし、Fe2.1V0.9AlではEF付近でわずかに強度が増大することを確認した。このスペクトルの特徴は、EF近傍でのアンチサイト欠陥の形成に起因しており、欠陥誘起磁性状態は、低温での電気抵抗増加やFeリッチ組成(x<0)での非剛体バンド的な正のゼーベック係数をもたらすことがわかった。 一方、Re置換した合金Fe1.90Re0.10V1.08-xTixAl0.92 (x=0.26)ではZT=0.24に達しており、p型Fe2VAl系合金としては最高性能が得られている。そこで、Re置換による熱電特性向上の起源を明らかにするために、Fe2-xRexVAlの電子構造をバルク敏感硬X線光電子分光(HAXPES)測定とバンド計算を用いて調べた。HAXPESの結果、FeサイトにRe置換するとEF近傍に新たなRe 5d状態が出現し、擬ギャップを徐々に狭めるように電子構造が変化することがわかった。Re置換による擬ギャップ幅の減少は、p型ゼーベック係数の増加およびそのピーク温度の低温側へのシフトに関連することを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
1. Ru2TiSiやRu2TiGeについて、構成元素を化学量論組成からずらすことにより価電子濃度VECを制御することも可能である。非化学量論組成の合金をベースとすることで擬ギャップ電子構造を制御し、さらに第四元素置換によりフェルミ準位を最適化することで熱電性能の飛躍的な向上を目指す。 2. 熱電特性の中で最も重要な役割を演じるゼーベック係数そのものの理論は依然として極めて不完全である。ボルツマン輸送方程式を基礎におけば、ゼーベック係数はフェルミ準位における状態密度の傾きと絶対値の比に比例する。しかし,この関係が成り立っていることを定量的に実証した研究すらまだない。そこでバンド計算や高分解能光電子分光実験により、ゼーベック係数はフェルミ準位における擬ギャップ構造だけで決まると言ってよいかどうかを見極める。
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Causes of Carryover |
大学の建物改修工事にともない、研究室のすべての実験装置を移転して設置することになったため、実質的な装置稼働時間が少なくなり、実験研究について予定通り行うことができなかった。そこで今年度は理論計算や光電子分光による研究を優先的に行うこととし、次年度に実験研究のための試料原料や消耗品の購入などに使用するほか、国際会議などに参加する際の旅費としても使用する予定である。
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