2021 Fiscal Year Research-status Report
Development of first prinicples calculation method of finite temperature defect energy
Project/Area Number |
20K05067
|
Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
西谷 滋人 関西学院大学, 工学部, 教授 (50192688)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 第一原理計算 / 有限温度 / 調和振動子近似 / 非調和振動効果 / 粒界エネルギー / 点欠陥 / 表面エネルギー / アルミニウム |
Outline of Annual Research Achievements |
「格子欠陥自由ネルギーの精密計算法の開発」では,第一原理計算だけを用いて有限温度の自由エネルギーを求める手法の開発と,その格子欠陥エネルギーへの適用を目的とした. 当初対象としていたAlの<100>対称傾角粒界は実験的に500Kで観測されていた傾角の対称的なエネルギー依存性を再現する結果となった.これは,整合的な粒界を構成するために不可欠な幾何学的に必要となる転位(geometrically necessary dislocation)が示す特徴的な構造が温度に対してそれぞれ異なった振る舞いをするため,基底状態で存在するエネルギー差が,自由エネルギーとなる高温ではその差がなくなった結果である.このような粒界の起源に起因するエネルギー依存性は未だ報告されたことがなく,転位論を見なす貴重な論文と評価されて専門誌への掲載が受理された. またこの研究の発展となる,Alねじり粒界への適用と不純物添加の影響は順調に進んでいる. 一方で,その他の欠陥構造として適用対象としていた点欠陥,表面のエネルギー計算,及び他の対象系としていたCuで第一原理計算の実行に問題があることが判明した.これは,研究開始当初に採用した計算法である調和的なEinsteinモデルと数値的に積分を実行するFrenkel-Ladd法の限界かもしれない. 次年度以降では,非調和効果を解析的に求める新たな自由エネルギー計算法と第一原理計算に比べて信頼度は落ちるが,格段に高速となる経験的ポテンシャルを用いて,その信頼性の評価を,AlだけでなくCuにおいても行い,多くの研究者が利用可能なコードの開発を進める予定である.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新しい手法として確立した有限温度第一原理計算では,調和的自由エネルギー変化をEinsteinモデルで,非調和的なエネルギーの付加分をFrenkel-Laddの平衡モンテカルロ法を拡張した熱力学積分で実行する.最初に適用したAlの対称傾角粒界では,原子環境が完全結晶に近く,シミュレーション温度が低いため,非調和な効果は小さく,調和振動子近似で自由エネルギーは良い見積であることが判明した.この結果を受けて,Alのねじり粒界,Mgを含んだ粒界での自由エネルギーの精密計算が順調に進んでいる. Alの一般的な平衡状態の達成温度はTm/2から考えて,500K程度である.この温度領域においてAlのモンテカルロ法による熱平衡に必要なステップ数は数百ステップ程度であり,Alの外殻電子数の少なさと相まって,数日程度でシミュレーションが終了する. ところがこれをCuに適用する場合,900K程度が必要となり数千熱平衡予備ステップが必要となり,電子構造の複雑さと相まって計算時間は数週間orderとなる. さらに,点欠陥や表面ではダングリングボンドの影響で,熱膨張に対する平衡位置が単純なEinsteinモデルでは不十分であることが判明した.すなわちモンテカルロでの動的なシミュレーションが不可欠である.
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は非調和の効果を解析的に適用する手法の開発に注力する.Einsteinモデルを拡張してエネルギーポテンシャルの高次微分を使って非調和エネルギーを見積もる手法がVu Van Hungらによって開発されている.この表式では,熱膨張や原子間ポテンシャルを用いるように限定されているが,我々は,第一原理計算でえられるエネルギーポテンシャルが使えるように拡張した.得られた結果は,オリジナルの結果よりも実験結果を忠実に再現するものであった.これをFrenkel-Laddのモンテカルロシミュレーションを用いた結果と比較検討し,その適用の妥当性を明らかにする.さらに,高速に実行可能な経験的な原子間ポテンシャルを組み合わせて,動的なシミュレーションから得られる数値的な値と,理論から予測される解析的な結果をうまく組み合わせる手法の開発を目指す. また,これらの過程で得られる経験的原子間力/第一原理計算でえられるエネルギーポテンシャルを用いて数値的/解析的,調和/非調和自由エネルギーの計算手法の基盤コードを開発する.これを多くの研究者が利用できるようにGithubで公開する予定である.
|
Causes of Carryover |
コロナ対応のため,発表を予定していた国際会議が直前にキャンセルされた.そのため,当初予定していた海外旅費の支出がなく,次年度への繰り越しとなった. また未だに海外渡航が,所属大学の方針として制限されている.そこで次年度は,遠隔での国際会議への参加を意図して調べたがあまり適当な会議が見当たらない. そこで研究成果の国際的な発信の手段として,論文執筆と計算コードの一般公開へ資源を集中する予定である.申請者は,全てのコードをRubyで記述しているが,一般の研究者が利用するためにはより標準的な言語であるPythonへの書き換えが必要である.Pythonの開発に慣れた学生を雇用し,コードの書き換えとGithubでの公開を始め,多くの研究者との共同研究を進める基盤を構築する.
|
Research Products
(4 results)