2020 Fiscal Year Research-status Report
ナノ粒子分散強化合金のバイモーダル化による高強度を維持した高延性発現機構の解明
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20K05117
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
阪本 辰顕 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 講師 (80403848)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | メカニカルアロイング / 分散強化 / 強制固溶 / 固溶限拡張 / バイモーダル組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
2種類のメカニカルアロイング(MA)によりAl-3wt%Al2O3を作製した。1つは6、12、24、48hでMAを断続的に停止し、粉末の合金化過程の解析のためMA容器から粉末を取り出す方法で、もう1つは48h連続でMAを行う方法であった。前者を断続的MA、後者を連続的MAと呼ぶこととする。合金化過程をX線回折測定と透過型電子顕微鏡(TEM)で調べた結果、断続的MAでは、12hまでAl母相に酸素が強制固溶し、その後48hまではAl2O3がAl母相から析出し、結果としてAl2O3粒子分散粉末が得られた。一方、連続的MAでは48h後においてもAl2O3が析出せず、酸素が強制固溶したAl-O強制固溶粉末が得られた。断続的MAでAl2O3の析出が生じた理由は、6、12、24hで粉末を取り出すためにAr置換したグローブボックス内でMA容器のふたを開けた時、雰囲気中の酸素(濃度約3%)がMA容器内に入るため、MAに関与する酸素量が多くなり、Al2O3の析出の駆動力が大きくなったためであると考えられる。Al2O3粒子分散粉末とAl-O強制固溶粉末を放電プラズマ焼結法により焼結した。焼結体のTEM観察を行った結果、Al2O3粒子分散粉末のほうがAl-O強制固溶粉末より小さなAl母相の粒径を呈していた。Al母相の粒界上にはAl2O3が存在しており、Alの粒成長をAl2O3がピン止めしていると考えられる。Al2O3粒子分散粉末は、焼結前にすでに分散粒子が存在しているため、焼結中のAl母相の粒成長が顕著に抑制された。本研究により、Al2O3粒子分散粉末とAl-O強制固溶粉末の2種類の粉末を選択的に作製できることが分かり、この2種類の粉末を混合して焼結することにより、粗大粒と微細粒からなるバイモーダル組織を作製することができることが予想される。本研究内容は、現在まとめて論文を執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
バイモーダル組織を利用した高強度・高延性化の報告が種々の合金でなされているが、分散強化合金においては報告例が少なく、また、分散粒子の高延性化に及ぼす効果については明らかにされていない。それを明らかにするために、研究の出発点として、Al-Al2O3合金を用いて、本研究に取り組み始めた。本研究の結果、メカニカルアロイングによりAl2O3粒子分散粉末とAl-O強制固溶粉末を選択的に作製できることが明らかとなり、これを利用してバイモーダル組織を作製できることが明らかとなった。この結果は、現在論文にまとめている段階である。新居浜工業高等専門学校との共同研究体制も構築でき、放電プラズマ焼結を用いた合金粉末の焼結を行うことも可能となった。今後、引張試験と組織解析を進めていくことにより合金の高延性化に及ぼす分散粒子の効果を明らかにしていく準備が整った。また、今後は分散粒子の効果を解析しやすくするために、Al2O3ではなくY2O3を使用した合金も作製予定である。Al2O3はTEM観察においてAlとコントラストが似ており、Y2O3を利用することで高コントラストで観察することができ、エネルギー分散型X線分光分析(EDS)による組成分析によっても粒子の解析が容易に行える。また我々の過去の研究によりAl-Y金属間化合物は生成しないことがわかっているため、Al-Al2O3系と同様の合金化過程をたどると予想される。以上から、Al-Y2O3系は本研究には適している。以上のように、本研究はおおむね順調に進んでいる段階である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究は、Al-Al2O3において得られたAl2O3粒子分散粉末とAl-O強制固溶粉末を用いて、バイモーダル組織を持つAl-Al2O3分散強化合金を作製し、高強度を維持した高延性化を実現することを試みるとともに、高延性化に及ぼす分散粒子の影響を明らかにすることを目的に進めていく。バイモーダル組織は、Al2O3粒子分散粉末とAl-O強制固溶粉末を混合して焼結することにより得られると予想される。なぜならば、Al2O3粒子分散粉末は焼結前にすでに粒子が分散しているため、Al-O強制固溶粉末より、分散粒子が焼結中のAl母相の粒界移動を効率よく抑制し、Al結晶粒の粗大化抑制が促進されるためである。また、Al-Y2O3の作製も試み、Al-Al2O3同様、メカニカルアロイング(MA)による粒子分散粉末と強制固溶粉末の作製が可能であるかを検証する。MA雰囲気中の酸素濃度が重要なパラメータであることが分かったので、酸素濃度を多くしてMAを試み、粒子分散粉末が作製可能であるかを確かめることで昨年度の合金作製の原理が正しいことを検証する。またこの合金系においてもバイモーダル組織を持つ分散強化合金を作製し、高強度を維持した高延性化の実現を試みる。本合金系は分散粒子の分析が容易であるため、高延性化に及ぼす分散粒子の影響を明らかにする研究に適している。引張試験をしたのち、透過型電子顕微鏡による組織観察および破断面の走査型電子顕微鏡観察を行うとともに、エネルギー分散型X線分光分析による組成分析を行い、分散粒子が延性に及ぼす効果を調査する。
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