2020 Fiscal Year Research-status Report
電解質塩のみで構成された金属カチオン電池用電解質の開発
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20K05144
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
窪田 啓吾 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (40586559)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
陳 致堯 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 産総研特別研究員 (20773435) [Withdrawn]
松本 一彦 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (30574016)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 二次電池 / イオン液体 / 溶融塩 / カリウムイオン電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
溶媒を用いず、電解質塩のみで構成される電解質の開発は、電解質がこれまで溶媒が不可欠であるという暗黙の了解を覆すものである。溶媒は室温での液体化など電解質の利便性を上げるために必須であるが、同時に有機溶媒の可燃性など溶媒由来のデメリットも電解質に添加してしまう。 本研究において、最初の対象となる金属カチオン電池にはカリウムイオン電池を選択した。カリウムイオン電池はカリウムの豊富な資源量と、リチウムイオン電池よりも高い電圧からポストリチウムイオン電池として期待されている。また、リチウム化合物に比べてカリウム化合物は耐熱性・耐加水分解性が高いものが多く、多くの電解質候補となる化合物を用いて電解質の研究を行うことができる。 この電池の場合、電極間移動イオンはカリウムカチオンであり、電解質塩はカリウム化合物を示す。従って本研究の主題である電解質塩のみからなる電解質の開発は、本電池の場合はカリウム塩を直接溶融させたカリウム溶融塩電解質の開発を意味する。本年度は、様々なカリウム化合物の物性測定により電池電解質として適したものをスクリーニングし、その中で最も優れた電解質の物性を既存の溶媒混合型電解質(電解質塩を溶媒に溶かしたもの)のものと比較し、電解質塩のみの電解質の特性を明らかにした。本研究の電解質は溶媒を含まないため電極間移動イオンであるカリウムイオンがきわめて豊富であり、溶媒混合型よりも大電流を通電できるため高速充放電可能な電池部材として期待できる。またイオン液体電解質の一種でもあるため難燃性・低蒸気圧であり、安全性の向上にも貢献する。 その後、既存のカリウムイオン電池用負極である炭素負極と本研究の電解質を組みあわせて電池試験を行った。結果として、炭素負極の理論容量にほぼ近い値で繰り返し充放電が可能であった。これにより、溶媒がなくとも既存の電解質と同様に機能することを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における最大の課題は、電解質塩であるカリウム化合物はほぼ全て200℃以上に融点を持つため、電池を作動させる実用的な温度である100℃以下でこれらを溶媒を用いず液体とすることである。本申請者らはカリウム化合物の中で融点100℃付近ととくに低いペルフルオロスルフォニルアミド系アニオンの化合物に着目し、これらを混合することで溶媒を用いずにさらなる融点低下を試みた。結果として、融点70℃以下のカリウム溶融塩を得ることができた。このような電解質塩のみで構成された金属カチオン電池用電解液は他所では研究されていない本研究初出のものである。 このカリウム溶融塩は、イオン液体として難燃性・低揮発性であることに加え、カリウム化合物を溶媒に溶解させた溶媒混合型の一般的な電解液とは全く異なる特性を見出すことができた。溶媒により電極間移動イオンであるカリウムカチオンの濃度が薄められていないため、極めて大電流を流しても電極近傍で授受されるカリウムカチオンが欠乏することがない。従って溶媒混合型電解質よりも大電流を流すことが可能であり、高速充放電に適した電解質として期待できる。 カリウムイオン電池としては、一般的な負極材料である炭素と組み合わせて80℃で良好に繰り返し充放電することが確認できた。これにより、カリウムイオン電池用電解質として実際に使用できる可能性が高いことが分かった。炭素負極に対して、溶媒がなくとも電解質が作動することも本研究が初出の例となる。 上記の成果について、2020年度に論文1報を発表することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
電池電解質として本研究の電解質をより実用に近づけるためには、さらなる低融点化により室温使用を可能にするのが第一の目標である。特にカリウムイオン電池における研究は、カリウム金属の融点である64℃以下で研究を行うことができればより一層の発展が期待できる。従ってより低融点のカリウム化合物の探索、およびそれらの組み合わせによる混合塩の熱物性測定により電解質の低融点化の実現を目指す。 また、電解質塩のみからなる電解質で溶媒混合型電解質と同条件(温度)で比較できるケースは本研究が初めてのため、より詳細な物性測定と比較により、本電解質の特色を明らかにすることは学術的に非常に意義のあるものである。 金属カチオン電池の研究としては、現在は炭素負極との組み合わせで良好な結果が得られている。今後はカリウムイオン電池用正極とも組み合わせてフルセルを構築し、より実用に近い実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度はコロナウイルスに関する緊急事態宣言により、テレワーク勤務が業務の多くを占めたため、実験消耗品として予定していた試薬等を購入・使用する機会が減じた。また、高額使用予定であった電気化学アナライザー(100万円程度)が別途入手できたため、それを購入するひつようがなくなったことも理由である。 今年度は昨年度行うことのできなかった実験のための試薬・消耗品購入、電池試験用の電気化学試験セルなどの購入に予算を使用する予定である。
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Research Products
(1 results)