2021 Fiscal Year Research-status Report
摩擦攪拌接合中の再結晶制御による微細組織形成手法の確立
Project/Area Number |
20K05168
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
柳楽 知也 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (00379124)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 摩擦攪拌接合 / 動的再結晶 / 積層欠陥エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、面心立方格子(FCC)型の金属材料を対象に高温での強加工プロセスの一種である摩擦攪拌接合によって独自に見出した再結晶を完全に制御できる現象の解明を通じて、組織形成に及ぼす支配因子を特定し、新たな摩擦攪拌接合(FSW)における再結晶制御による微細組織形成手法の確立を目指す。 2020年度は、積層欠陥エネルギーが小から中程度の金属(Cu:78, Cu-30Zn:20, Ag:22 mJ/m2)を対象にFSW中の組織形成について調査し、再結晶温度に対する接合温度の比によって、組織形成を統一的に整理できることを明らかにした。2021年度は、積層欠陥エネルギーの高いAl(166 mJ/m2)を対象に微細組織形成に及ぼす接合温度および純度の影響について調査を行った。低温条件(0.56Tm、Tm:融点)の場合、低い積層欠陥エネルギーを持つ金属において一般的に発生する不連続動的再結晶が変形初期で起こることを見出した。さらに変形が進むと、高い積層欠陥エネルギーを持つ金属において一般的に発生する連続動的再結晶および幾何学的な動的再結晶が起こることが分かった。その結果、等方的な結晶と塑性変形により伸長した結晶が混在する組織が得られた。一方、高温条件(0.67Tm)では動的回復の促進により不連続動的再結晶は抑制され、連続動的再結晶が支配的に起こった。その結果、微細でかつ等方的な結晶粒からなる組織が得られた。次に純度を2Nから4Nに変化させると、低温条件であっても動的回復が促進される結果、連続動的再結晶が支配的に起こった。 集合組織に関しては、低温条件ではCタイプのせん断集合組織が発達した。また、不連続動的再結晶により、45°回転の立方集合組織も同時に発達した。一方、高温条件では、Bタイプのせん断集合組織のみが発達した。組織形成と集合組織は明瞭な相関があることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FCC金属における摩擦攪拌接合の組織形成に関して、積層欠陥エネルギーの高いAl、中程度のCu、低いAgやCu-30Znを対象に研究を行い、各積層欠陥エネルギーにおける再結晶挙動について系統的に明らかにすることができた。従来は、積層欠陥エネルギーが高い場合は、連続動的再結晶が発現し、積層欠陥エネルギーが低い場合は、不連続動的再結晶が支配的に起こるという単純な理解しかなされてこなかった。本研究では、積層欠陥エネルギーに加えて、接合温度、溶質濃度の影響について詳細に調査したところ、接合温度が低く、溶質濃度が高ければ、積層欠陥エネルギーが高くても不連続動的再結晶が発現することを見出した。また、接合温度が高く、溶質濃度が低ければ、不連続動的再結晶が抑制されることが明らかとなった。つまり、摩擦攪拌接合における再結晶制御に向けた指針を獲得することに成功している。また、摩擦攪拌接合において発達する集合組織においても再結晶挙動と深く関係していることが明らかとなった。通常、摩擦攪拌接合は、ツールの回転運動によって、材料が変形するため、せん断集合組織が発達することが知られている。接合温度や溶質濃度によっても発達するせん断集合組織が異なり、不連続動的再結晶に起因する集合組織も同時に発達することが明らかとなっている。 以上の点から当初の計画通りに研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、摩擦攪拌接合中の微細組織形成に影響を及ぼす支配因子を正確に特定するために、高温での加工中に相変態が起こらず、不純物などの合金元素の影響を受けない単純な面心立方格子(FCC)型の純金属を対象としている。ただし、ここで得られた知見を実際の接合技術へと応用するためには、モデル材料である純金属だけでなく、実際の実用合金へと研究対象を拡大する必要がある。そこで、本課題をさらに加速させるために、強度-延性バランスに優れており、次世代の構造材料の一つとして期待されている高Mn鋼を研究の対象とする。高Mn鋼の場合は、Mn量によって、積層欠陥エネルギーが大きく変化(10から60 mJ/m2)することが報告されている。つまり、同じ高Mn鋼においてもMn量によって組織形成機構が全く異なる可能性がある。また、高Mn鋼の特徴として、MnはFCC型のオーステナイト相の安定化元素であるため、室温においてもオーステナイト主体の組織となる。オーステナイトが変形すると双晶変形を起こして加工硬化が大きくなり、一様伸びが大きくなる双晶誘起塑性と呼ばれる現象が発現する。そのため、高温での変形過程において、再結晶の形成だけでなく、双晶に起因する変形挙動も起こる可能性がある。そこで、これまで確立してきた摩擦攪拌接合において未接合部から接合部に至るまでの組織形成の発達過程が観察可能な急速冷却FSW法を用いて、組織形成過程に関する調査を行う。
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Research Products
(5 results)