2020 Fiscal Year Research-status Report
正常時運転履歴データを活用した化学プラントの分散協調型運転監視システム
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20K05211
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
柘植 義文 九州大学, 工学研究院, 教授 (00179988)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 正常運転データ / 予兆検知 / 劣化現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,酢酸ビニルモノマー(VAM)の製造プラント(VAMプラント)を対象して,2020年度は,状態基準管理ができない冷却器の伝熱性能低下,反応器ジャケットの伝熱性能低下,および,触媒劣化による反応速度低下に着目し,VAMプラントを再現するダイナミックシミュレータを用いて現実的な運転履歴データを作成して劣化現象の再現と監視システムの検証を行った. 本研究で対象にした冷却器には出口温度制御系が設置されているが,操作変数である冷却水の流量や温度は測定されていなく,調節弁の開度指示値MVのみが測定されている.そのため,プロセス流体の流量や温度の変動のみならず,冷却水の流量や温度が変動しても温度制御系の動作によりMVは大きく変動する.そのような変動を表現するモデルとして冷却器周辺の温度や流量及び低温流体温度の代替変数を入力変数とし,低温流体のバルブ開度指示値MVを出力変数としたPLSモデルを採用した.PLSモデルによる推定値と実測値との間の相対誤差に着目することにより,性能低下がある程度進行すると伝熱性能低下を捉えることができることが分かった. 反応器関係では,触媒劣化と反応器ジャケットの伝熱性能低下の監視と識別を試みた.まず,VAMプラントを原料の供給と予熱を行う原料供給部、原料を反応させる反応器部、反応後の流体を気液に分離する気液分離部の3つの工程に分割した.監視には1-クラスサポートベクターマシン(1-SVM)を採用し,3工程での監視用の識別関数を求めた.その結果,それぞれの劣化に対して検知された工程の組合せが異なり,検知を識別は可能であった.しかしながら,制御系の不調などが原因である場合にも検知される工程の組合せが同じで識別できないことがあった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた3つの経年劣化現象の内,2つの劣化現象(伝熱性能低下,反応速度低下)について検討する事ができた. VAMプラントで劣化現象が発生する前の正常運転状態として,供給原料の温度や圧力等のランダムな変動の外に冷却水や気温の季節変動を加味して,ダイナミックプラントシミュレーターVisual Modelerにより運転データを作成した.最初の240日間は正常運転データとみなし(蓄積データと呼ぶ),それ以降に劣化現象を発生させた(劣化発生後の運転データを検証データと呼ぶ).運転データは1分間隔で測定されるが,性能の長期的な変動の概要を把握するため,24時間ごとに単純平均を取って監視に利用した. 冷却器の出口温度制御系のバルブ開度指示値MVを推定するPLSモデルの構築には蓄積データを用いるが,この期間は伝熱性能があまり低下していないため,このモデルによる推定値は伝熱性能が低下していない場合のMVを表す.このMVの推定値と実測値との相対誤差の絶対値AREを指標とした.具体的には,大局的な変動が分かりやすいようにウィンドウ幅30日の指数移動平均を利用した.その結果,伝熱係数の低下が少ない初期は分かりにくいものの,AREが次第に増加して伝熱性能低下を捉えることができた. 反応器関係での触媒劣化と反応器ジャケットの伝熱性能低下の監視用の1-クラスサポートベクターマシン(1-SVM)の識別関数を蓄積データから求めた.触媒劣化した場合は,3つの工程(原料供給部,反応器部,気液分離部)全てに影響を与えるため,3工程で検知された.一方,反応器ジャケットの伝熱性能が低下した場合は,反応器部のみにしか影響しないために,反応器部のみで検知された.しかし,今後検討予定である制御系(反応器の出口温度制御系)の不調が進行する場合を試したところ,検知される工程の組合せが同じであるケースがあった.
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Strategy for Future Research Activity |
未検討であった制御系の不調を対象にした検討を行う.想定している制御系の不調は,操作端の劣化(調節弁のつまり)と検出端の劣化(測定バイアス)である. プラント内には制御系が多数存在するので,制御系毎に状態を監視するシステムを構築する.具体的には,制御系毎に監視ユニットを定義し,主成分分析(PCA)を用いた多変量統計的プロセス管理(MSPC)を適用する.監視ユニットは各制御系の検出端に影響を及ぼす変数群(他制御系の開度指示値を除く)で構成し,それらの変数を用いたPCAにおけるT2統計量とQ統計量に着目する.VAMプラントの蓄積データに適用することにより,正常運転状態に対応するT2統計量とQ統計量のしきい値を設定して制御系の不調検知の基準とする. 操作端の不調(調節弁のつまり)が発生しても,つまり分を補って調節弁を開くと操作量自体は制御設定値に維持される.従って,調節弁開度指示値だけが正常状態からズレるために,当該制御系の監視ユニットのみで不調が検知され(理論上は少なくともQ統計量に影響が出るはず),その他の監視ユニットでは検知されないはずである.一方,検出端の不調で測定バイアスが発生すると,バイアスを含んだ測定値が制御設定値になるように制御されるために,制御量の測定値は見かけ上は設定値であるが,制御量の真値はバイアス分だけズレた値になってなり,制御系外に影響が伝搬する.その影響が他の制御系にも伝播するが,他の制御系の監視ユニットでは,理論上はQ統計量でなくT2統計量に影響が出ると考えられる. なお,1-SVMでは反応器関係での触媒劣化と反応器ジャケットの伝熱性能低下と反応器の出口温度制御系の不調の識別ができなかったが,今回の監視ユニットを拡張して触媒劣化と反応器ジャケットの伝熱性能低下を検知・識別する方法も検討する.
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