2021 Fiscal Year Research-status Report
Effects of environmental factors on specific growth rates of individual microorganisms in bioprocess using microbial consortia
Project/Area Number |
20K05225
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
鈴木 市郎 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 特別研究教員 (90303081)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | マイクロバイオーム / 時系列データ解析 / 比増殖速度 / 硝化細菌 / 16Sアンプリコン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は申請者らが独自に開発したマイクロバイオーム動態解析法をもとに、様々な微生物を含む「微生物叢」を用いたバイオプロセスにおいて、培養温度などの環境因子の違いが個々の細菌の増殖に与える影響を簡便かつ詳細に解析し、微生物叢を用いたバイオプロセスの高機能化・高度化に活用する新しい手法を確立することを目的としている。従来のマイクロバイオーム解析法が疫学的・統計学的であるのに対し、本研究で確立を目指す解析法は生物化学工学的・速度論的な手法であることを特徴とする。 本研究では使用する微生物叢として硝化細菌を含む細菌叢を用い、アンモニアを含む培地において、環境因子として培養温度の異なる培養での個々の細菌の比増殖速度への影響を解析する。この培養の特徴は、アンモニアとその酸化で生じる亜硝酸がアンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌のエネルギー源となり、消費された基質が次の基質へと連鎖する複雑な過程を辿ることであり、各細菌の比増殖速度や基質消費速度などを精査することにより、細菌叢内の各細菌の相互作用も考察することができる。 2021年度は、複数の硝化細菌を含む細菌叢を用い、アンモニアを含む培地で15, 20, 25, 30, 35, 40℃での培養を実施した。このうちアンモニア酸化が観察されなかった40℃を除く5温度条件で、アンモニア、亜硝酸、硝酸と、アンモニア酸化細菌のamoA遺伝子の濃度を測定した。アンモニア酸化速度およびamoA遺伝子の比増加速度への培養温度の影響を調べた結果、共に15~30℃で高い温度依存性が認められた。25℃の培養についてマイクロバイオーム動態解析を行い、個々の硝化細菌の比増殖速度や遅延期、定常期などの増殖パラメータを容易に導出する手法を構築した。これまでに得られた成果に基づき、今後他の培養温度にて同様の解析を行い、個々の細菌の増殖への温度影響や細菌間相互作用を考察する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の進捗状況を、A)異なる環境因子の条件下での細菌叢を用いた培養実験、B)培養中の各細菌の増殖に対するマイクロバイオーム動態解析法を用いた速度論的解析、の2点に分けて評価する。 A)の培養は、硝化細菌群集を用いたアンモニア除去プロセスを対象とした。この培養の特徴は、アンモニアとその酸化で生じる亜硝酸がアンモニア酸化細菌、亜硝酸酸化細菌のエネルギー源となり、消費された基質が次の基質へと連鎖する複雑な過程を辿ることであり、各細菌の比増殖速度や基質消費速度などを精査することにより、細菌叢内の各細菌の相互作用も考察することができる。環境因子として培養温度を15, 20, 25, 30, 35, 40℃の6条件とし、一定時間ごとに培養液を採取してアンモニア、亜硝酸、硝酸濃度の測定および培養液からの細菌叢のDNA抽出を行った。硝化が見られなかった40℃以外の5段階の温度でアンモニア、亜硝酸の酸化速度およびアンモニア酸化細菌が持つ遺伝子amoAの濃度変化を解析した。本研究で用いた細菌叢のアンモニア酸化速度およびamoAの比増加速度(アンモニア酸化細菌の比増殖速度に該当)の温度依存性を調べた結果、どちらも15~30℃の間で高い温度依存性を示した。 B)のデータ解析は25℃の培養について行い、16SリボソームRNA遺伝子を対象としたマイクロバイオーム動態解析法を用いて、各細菌の経時的な増減パターンの類似性に基づきグループ分けを行い、硝化細菌を含むグループを選抜して個々の細菌について比増殖速度、増殖開始までの時間(遅延期)、増殖終了の時間(定常期)のそれぞれの増殖パラメータを簡便に導出する方法を構築した。 以上より、A)、B)ともにおおむね順調に進展しており、最終年度では残りの4温度条件の培養でのデータ解析を中心に研究を実施し、学会発表や論文等で成果を公表していく。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では様々な細菌からなる細菌叢を用いたバイオプロセスにおいて、申請者らが独自に開発したマイクロバイオーム動態解析法をもとに、個々の細菌の比増殖速度を求め、培養温度などの環境因子の違いが各細菌の比増殖速度に与える影響を詳細に調査することにより、細菌叢を用いたバイオプロセスの機構をより深く考察しその効率化・高機能化に寄与する、新しい解析手法を確立することを目的としている。 最終年度は既にデータ解析を行った25℃以外の4温度条件について、2021年度に構築した手法を用いて各細菌の比増殖速度等の増殖パラメータを導出し、個々の細菌の増殖の温度依存性を詳細に解析し、さらに細菌間の相互作用などについて考察を行う。また、本研究課題で構築した細菌叢中の各細菌の増殖データ解析手法とその成果を、学会発表や論文等により公表する。 研究実施上の課題として、本計画では当初、一つの培養条件において経時的に8点のサンプルがあれば比増殖速度等のパラメータが導出可能であるとしていたが、実際には各硝化細菌の増殖時期や比増殖速度などの多様性などから、倍に近い15点程度のサンプル採取が必要であることが判明した。そのため、当初計画では環境因子として温度以外に初発アンモニア濃度の変化を予定していたが、次世代シーケンスに要する経費等の制約により、本研究では温度のみの解析となった。温度のみの解析でも比増殖速度等の導出方法の構築には充分であったが、本研究で用いた細菌叢にはNitrosomonasなど、アンモニア酸化能を有するにもかかわらず今回の培養条件ではほとんど増殖を示さないものが存在した。これらの硝化細菌は例えば初発アンモニア濃度をより高くすることで増殖を示す可能性があるため、本研究課題での実施は見送るものの、今後も引き続き、初発アンモニア濃度の変化についての研究を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
費目名「その他」に含まれる細菌叢組成の次世代シーケンス(NGS)解析の外注費のうち、初年度にCOVID-19による緊急事態宣言発令に伴う研究上の制約により実施できなかった3回分と2021年度の3回分を経費(1,116千円、186千円×6回)として計上していたが、研究方法の見直しにより2021年度中には4回のみの実施となった。残り2回分は最終年度に合算して実施する予定である。 また、初年度の研究遅れから成果の学会発表が実施できず、旅費・宿泊費として計上していた159千円(費目名「旅費」)が2年分使用できなかった。最終年度もいくつかの学会大会がオンラインでの実施可能性が高いため、費目「その他」の残予算も含めての一部(64,590円)を実験消耗品として消化した。なお学会の出張旅費については、最終年度に予定していた国際会議出張旅費もオンライン開催となり大半の旅費・宿泊費が不要となるため、未使用分は実験の試薬消耗品や追加で実施するNGS解析費用として最終年度中に消化する。
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