2020 Fiscal Year Research-status Report
立方体型構造の金属クラスターに基づいたクラスター触媒の合成と反応探索
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20K05244
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小安 喜一郎 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (20508593)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | クラスター / 高分子安定化 / レーザーアブレーション / 光電子スペクトル / 量子化学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
気相実験で観測されたようなバルク状態とは異なる幾何構造のクラスターを溶液中に取り出すため,令和2年度はアブレーション実験方法の開発を進めた。クラスターを取り出す溶媒をフラスコ内に低圧雰囲気で共存させてレーザー蒸発法を適用し,生成したクラスターを直接溶液中に取り込むための方法の開発を進めてきたが,金属ターゲット周辺にさらに小さい容器を設置し,局所的に高圧力領域を経ることにより,クラスターの生成促進を狙った。一方で,X線回折法や透過型電子顕微鏡を利用するために分取量を増やすため,高分子保護剤であるPVPのメタノールおよび水溶液中でもアブレーション実験を適用するためのセットアップを作成した。この際,レーザーアブレーション実験では得られる金属蒸気量が比較的少ないため,溶液量を抑えて再調製なく紫外可視吸収分光などの測定に十分なクラスター濃度が得られるよう工夫した。 得られた試料の透過型電子顕微鏡像を測定したところ,平均粒径 (1.8 ± 0.7) nm程度のサイズ分布が得られた。分布は広かったものの,小さいサイズ(20量体程度)のクラスターと推定される像が観測できた。原子配置は計算で予測された立方体型に近い構造が得られていた。 一方で,複数の金属を混合することによってバルク状態の単一金属と異なる構造が得られるかどうか調べた。まずは,金にケイ素を混合した場合のクラスターの構造を探索したところ,光電子スペクトルと理論計算からクラスター中でAuとSiが分離した構造となることが推定された。また,クラスターサイズでバルクと異なる構造を取りうる金属であるインジウムと金の金属間化合物では,表面インジウムのリーチング処理によって触媒活性が発現することを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,バルクにおいて面心立方構造や六方最密構造といった最密充填構造になる金属を,直径2 nm(原子数100個程度)程度のクラスター領域まで縮小することによって,バルクと異なる幾何構造を引き出して触媒などへ適用することを目指している。まずは立方体型をはじめとするバルクとは異なる原子配置をもつクラスターが生成するかどうか確認し,その生成量を増やしていく必要がある。令和2年度は,イオン移動度測定や光電子スペクトル測定の結果に対して考えられる構造異性体を理論計算で再現して比較し,安定構造の系列についてまとめた。これと並行して,アブレーション実験で得られたクラスターを溶液中に取り出す方法を進展させた。具体的には少量の溶液中でアブレーション実験が適用できるようセットアップを工夫し,溶液中で得られたクラスターの構造を透過型電子顕微鏡像を測定して調べたところ,真空中で適用したイオン移動度測定や光電子スペクトル測定と理論計算を組み合わせて推定されたような20量体程度の立方体型構造のクラスターが得られている可能性が得られた。今後はこれらのクラスターの生成頻度を高くするよう温度や溶媒などの条件を検討しながら構造情報を収集しつつ,溶液中の反応に対する触媒活性の探索を進める。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,初年度に得られた金属クラスターの触媒活性を調べていく。予備的な実験では,一般にイリジウムナノ粒子が適用されている水素化反応に対する触媒活性が低い可能性が高い。この低い反応性がサイズに依存するかどうかサイズ分布を変化させることによって調べるとともに,表面状態についてもX線光電子スペクトルなどから調べる。また,酸化反応など他の反応に対する活性も調べる。 現段階では生成物のサイズ分布が広いためにこれを抑えつつ制御することや,X線光電子スペクトルやX線回折パターン測定など,さらなる解析に向けて生成量もさらに増やすことが必要である。そのため,さらに生成条件を検討する。例えば,安定化に用いる高分子(PVP)の濃度を高くして溶液の粘性を高くすることにより,サイズ分布が狭くできるか試す。この方法はPVP安定化金クラスターの研究で適用されており,イリジウムクラスターについても適用できるか検討する。また,現在は溶液中のアブレーション実験の際には大気雰囲気下で行っているが,特に酸素による表面酸化の影響が否定できない。また,サイズ分布を減少させるために溶液を冷却する際にも,空気中の水分の凝集による影響が考えられる。そのため,嫌気雰囲気下の溶液中に金属試料を設置してアブレーション実験を適用できるよう,チャンバにガラス管を接続した装置を用意して実験を行う。
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Causes of Carryover |
(理由)令和2年度は,他研究機関からの助成金が獲得できたためそちらを優先して使用し,溶液中でのクラスター合成とサイズ分布や構造の測定についての開発を進めたるとともに,合金・金属間化合物の触媒活性を調べたため,次年度使用額が生じた。 (使用計画)今年度は,クラスターを合成するための溶液中アブレーション実験において嫌気雰囲気を達成するためにチャンバとガラス容器を組み合わせた装置を作成する。また,その際に用いる不活性ガスや圧力調整器などの一式を揃える。一方で,得られたクラスターのサイズ分布や幾何・電子構造を調べるために共用装置を借用して透過型電子顕微鏡やMALDI質量分析法,X線光電子スペクトルを測定する必要があり,これらの使用料にも充当する。
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Research Products
(3 results)