2022 Fiscal Year Research-status Report
固液界面での化学反応を加速するシミュレーション法の開発
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20K05246
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
尾形 修司 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90251404)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 化学反応加速 / DFT / MD |
Outline of Annual Research Achievements |
密度汎関数理論(DFT)で電子系を扱う第一原理分子動力学(DFT-MD)シミュレーションは,数百原子規模で数ピコ秒程度の経過時間で,様々な反応ダイナミックスに使われ実績を上げてきた.しかし,固液界面において常温で進む皮膜生成反応の場合は,その反応バリアが1 eVオーダーであってマイクロ秒以上の経過時間を要する現象であり,DFT-MDシミュレーションでは再現できないことが通常である.この基本的問題を解決するため,対象系から選んだ少数の反応中心原子間で電子が移動する化学反応プロセスを網羅的にリストし,適切なindexを用いて分類した後に,直接計算と統計的推測を組み合わせて精度良くバリアを求め,統計力学に基づいて1つの反応プロセスを選んで化学反応を人為的に加速する手法を,新たに開発している.2021年度までに,(i) 反応中心原子群内での電子移動のエネルギーバリアを計算する際に隣接3原子から6原子までの範囲で原子群を選ぶように改良した.(ii) 反応中心原子群を特徴づける指紋(fingerprint)を化学ボンドのネットワークマトリックスで表現するように改良した.(iii) 歪などの外部環境によって同一fingerprintでのプロセス同士のエネルギーバリアが変化する様子を,反応中心原子群内の化学ボンド長を指標に選ぶと良く表現できることを利用してKriging法を用いて化学ボンド長から未知のエネルギーバリアを予測するように改良した.2022年度は,Liイオン電池内の負極近傍での皮膜生成反応に対して化学反応加速型DFT-MDシミュレーションを実施し,運用上の問題点を調べた.また,適用対象の1つとなる他の固液界面反応について,鍵となる反応プロセスを高圧にして発現させることで,化学反応加速型DFT-MDシミュレーションの準備を進めた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度までに,(i) 3原子から6原子の範囲で反応中心原子群とみなして電子移動のエネルギーバリアを計算すること,(ii) 反応中心原子群を特徴づける指紋(fingerprint)を化学ボンドのネットワークマトリックスで表現すること,(iii) 歪などの外部環境によって同一fingerprintでのプロセス同士のエネルギーバリアが変化する様子をKriging法を用いて予測することにして,化学反応加速法を改良した.2022年度は,化学反応加速型DFT-MDシミュレーションの適用系として, Liイオン電池のグラファイト負極近傍でのLiイオン群とEthelene Carbonate(EC)液体との皮膜生成反応を考えた.実際にスパコンを用いて,Liイオン群とEthelene Carbonate液体系に対して,800原子程度の規模で,化学反応加速型DFT-MDシミュレーションを進めた.この際,負極近傍であることを模擬し,電子を少しずつ系に追加した.シミュレーションの結果,EC分子が分解して生じた数個のCO3^{2-}群と数個のLiイオンが連結したLixCO3型化合物が生じた.この結果は,実験からPeledモデル(1997)として知られている,固体電界質皮膜(SEI)にはモザイク状にLi2CO3的領域が観察されることと良く整合している.また別途,適用対象の1つに予定している酸化鉄基板上の Tricresyl phosphate(TCP)分子液体の系に対して,高圧でDFT-MDシミュレーションを行うことで,鍵となる反応プロセスを同定した.この結果は,化学反応加速型DFT-MDシミュレーションの検証用データとして重要である.
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に実施した,EC分子とLiイオンとの系に対する化学反応加速型DFT-MDシミュレーションにおいて,実験結果と整合する化合物が得られたことは,本手法の有用性を示している.一方で,このシミュレーションの最中に,EC分子が分解して生じた数個のCO3群と数個のLiイオンから成る化合物が生じる際の個々の反応バリアエネルギーには,場合によっては,予測値から0.5eV程度ずれている場合があった.バリアエネルギーの予測精度を高めることは,化学反応加速型DFT-MDシミュレーションの信頼性を高める上で大変重要である.様々な検討の結果,予測したバリア値と実際のバリア値とのずれが大きくなった際には,予測に使っていたバリア値のデータベースをリフレッシュすることが適切と判明した.そこで2023年度は,バリアエネルギーのデータベースを適切な状況でリフレッシュするアルゴリズムを導入し,改めて化学反応加速型DFT-MDシミュレーションを実施することを予定している.
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Causes of Carryover |
2022年度に実施した,EC分子とLiイオンとの系に対する化学反応加速型DFT-MDシミュレーションでは,個々の反応バリアエネルギーには,バリアエネルギーのデータベースからKriging法で予測したバリア値から,実際のバリア値が0.5eV程度ずれている場合が含まれていた.検討の結果,予測に使っていたバリア値のデータベースをリフレッシュすることで,予測精度を高めることが可能な見込みがあることが判明した.スパコンは,2022年度末は大変混雑し投入しており,jobを投入しても実行順が回ってこないことが予想できた.そこで,研究資金を有用活用するため,次年度である2023年度まで研究期間を延長し,2023年度はじめの,スパコンが比較的空いている時期に,改良した化学反応加速型DFT-MDシミュレーションを実施することとした.
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Research Products
(5 results)