2021 Fiscal Year Research-status Report
オンオフ可能なプラズモニックナノ材料を用いた超高感度分子センシング
Project/Area Number |
20K05280
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
新ヶ谷 義隆 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (40354344)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラマン増強 / 酸化タングステン / マルチプローブ原子間力顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は酸化タングステンナノロッドによるラマン散乱オンオフ効果を用いることによって、ラマン散乱スペクトルの中から溶液中に存在する分子からのラマン散乱に起因するバックグラウンドシグナルを完全に消去し、酸化タングステンナノロッド表面のアクティブサイトからのラマン散乱のみを抽出できることを実証する試みを実施した。表面にナノグラフェンを形成させた酸化タングステンナノロッドをタングステンティップ先端に取り付け、10%の濃度でエタノールを含有する0.15M NaCl水溶液中に挿入し、電圧を印加した。-900mV vs Ag/AgCl の電圧を印加することによってプロトンのインターカレーションが進行し、ラマン散乱増強効果がオフ状態になり、酸化タングステンナノロッド表面のナノグラフェンのピークが完全に消失した。溶液中のエタノールによるピークもナノグラフェンのピークと同程度で現れていたが、エタノールおよび水のピークはオンオフ状態で全く変化することはなかった。従って、オン状態とオフ状態のスペクトルを差し引くことによって、アクティブサイト近傍からのラマン散乱のみを抽出することができ、ナノグラフェンのピークのみが得られた。今後はオンオフの切り替え速度をどこまで高速化できるかを印加電圧や電解質組成などを様々に変化させて検討を行い、増強ラマンシグナルのロックイン検出による高感度化を図る。 ラマン散乱増強効果のオンオフスイッチングのメカニズム解明を行う上では4探針計測を行う酸化タングステンナノロッドの光散乱、光吸収、ラマン散乱をその場で計測することが重要である。そのために構築した4探針原子間力顕微鏡システムに532nmCWレーザー、分光器、フォトダイオード、CCD検出器、長作動対物レンズを組み込みんだ装置において、酸化タングステンナノロッド表面の分子のブリンキングを観察することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
酸化タングステンナノロッドのオン状態とオフ状態の電気伝導率を溶液中で4探針計測し、ラマン散乱増強効果のオンオフメカニズムを解明する試みは依然として困難な状況であるが、一方でオン状態とオフ状態のスペクトルの比較から増強サイト近傍のシグナルのみを抽出することに成功し、ロックイン検出による高感度化実現のための進展が得られたためおおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
酸化タングステンナノロッドによるラマン散乱増強効果のオンオフスイッチングを引き起こすのは電解質溶液中におけるプロトンのインターカレーションであると考えている。プロトンのインターカレーションは電解質溶液を用いずともナフィオンなどの固体電解質を用いれば大気中でも引き起こすことが可能である。これが実現できれば、溶液中で困難であった4探針原子間力顕微鏡による4探針電気抵抗率計測を固体電解質上の酸化タングステンナノロッドに対して大気中で行うことができる。このような方針で固体電解質上でのプロトンインターカレーションの試みを引き続き行い、オンオフスイッチングのメカニズム解明に繋げる。 また、令和3年度に得られたオン状態とオフ状態のスペクトルの比較から増強サイトからのシグナルを抽出することができた結果を受けて、今後はオンオフの切り替え速度をどこまで高速化できるかの検討を行い、増強ラマンシグナルのロックイン検出による高感度化を図る。
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Causes of Carryover |
初年度に購入予定であった532nmCWレーザーが当初導入を計画していたものよりも大きく下回る価格で、かつ高性能なものが見つかったため、使用額を抑えることができたため2年目の予算も3年目に繰り越すことができた。マルチプローブ原子間力顕微鏡による4探針計測に必要となる高純度材料、試薬の購入と研究成果を発表、出版するための費用として使用する予定である。
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