2021 Fiscal Year Research-status Report
第一原理計算による新規反強磁性スピントロニクス物質開拓
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20K05299
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
柳 有起 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (70634343)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スピンホール効果 / スピントロニクス / ディラック反金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
スピントロニクスにおいてスピン流生成法の確立は重要課題の一つである。従来は、非磁性金属におけるスピンホール効果がその代表的な手法として知られ、精力的に研究されてきたが、近年、磁性体における非自明なスピン流生成に関する研究が進展を見せている。このような背景のもと、本研究では、反強磁性スピントロニクス物質の開拓を目指した研究を行っている。本年度得た主な成果は以下の通りである。
(1) 磁性体の研究において、磁気構造の特徴づけは重要な位置を占めている。本研究では、以前我々が提案した多極子展開に基づく磁気構造生成法の拡張を行い、単位胞間の空間変調を持つ磁気構造の特徴づけが可能となった。最近、反強磁性体α-Mn、及びCoTM3S6 (TM=Nb, Ta)が大きな異常ホール効果を示すことで注目されているが、本手法をこれらの物質へ適用することで、磁気構造の候補を提案するとともに、秩序下で発現し得る物性応答について明らかにした。尚、この磁気構造生成法は磁性体の第一原理計算に必要な初期磁気配列を効率的に構築できるため、今後の反強磁性体探索に役立つことが期待される。 (2) ディラック反金属の候補物質である反強磁性体CuMnAsのスピン伝導を第一原理計算に基づいて評価した。その結果、非磁性状態ではスピンホール伝導度テンソルが近似的に反対称になっているのに対し、反強磁性状態では対称成分も有限となることでスピンホール伝導度テンソルに顕著な非対称性が現れることを見出した。これは磁気転移を利用してスピン流を制御できることを示唆しており、スピントロニクスの観点から興味深い。また、ノーダル線と呼ばれるトポロジカルに非自明な電子構造がスピンホール伝導度に支配的な寄与を与えていることを示した。 (3) 前年度に引き続き、反強磁性金属におけるスピン伝導の計算コード開発及び、テスト計算を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
α-Mn、CoTM3S6、CuMnAsといった物質に対する実験の進展に伴い、これらの物質に関連した研究を優先したため、当初予定していた反強磁性金属のスピン伝導度の網羅的な評価などについては未だテスト計算やコード開発の段階に留まっている。一方、本年度実施した磁気構造生成法の拡張により、課題開始時の想定よりも広範な反強磁性体に対してスピントロニクス物質を探索できる可能性が出てきた。また、CuMnAsの研究で得られた磁気転移に伴うスピンホール伝導度テンソルの非対称性という知見は、課題開始時には考えていなかった新たな視点を本研究に提供するものである。 以上の進捗状況を総合してやや遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は課題開始時には想定していなかった重要な成果が得られたものの、当初予定していた反強磁性金属における電流-スピン流変換の計算などに遅れが出ている。今後はまず、反強磁性金属における電流-スピン流変換に関する計算コード開発を完了し、候補物質に適用する。また、Liechtenstein法や原子極限からの摂動法の計算コードを開発し、候補物質に適用して反強磁性絶縁体の有効模型構築を行う。尚、海外のグループによってLiechtenstein法の計算コードが公開されているため、その有効性が確認できれば、当該パッケージを利用することで模型構築の効率化を図る。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い、国内学会、国際会議の現地開催が中止となったことが次年度使用額発生の主な理由である。未使用額は来年度の出張旅費として使用することを計画している。
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Research Products
(8 results)