2020 Fiscal Year Research-status Report
平行平板電極による高安定な電気化学インピーダンスバイオセンサの作製と応用
Project/Area Number |
20K05300
|
Research Institution | Tokyo University of Marine Science and Technology |
Principal Investigator |
大貫 等 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (60223898)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | バイオセンサ / 電気化学インピーダンス法 / 免疫センサ / 抗原抗体反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
電気化学インピーダンス分光法によるバイオセンサは,非標識・簡易・迅速など優れた特性を有する.本研究では,平行平板電極を開発することにより,平滑で整った表面上で進行する抗原抗体反応のみを信号化し,高感度化と高安定性・高選択性を両立する画期的な手法を確立することを目的とする.さらに同一基板上に2電極を配置した基板を作製し,一方を非特吸着のみが生じるブランク電極として,もう一方のセンサ電極の信号との差分をとることで,ノイズとなる非特異吸着成分を取り除く新手法の開発を行う. 今年度はCovid-19の蔓延のため,当初想定していたスケジュール通りに研究を進めることが困難であった.そこで,1)実験準備に要する時間をできる限り圧縮する,2)当初のスケジュールに関わりなく実行可能な項目を進める,といった観点より研究を進めた.その結果,以下の項目について具体的な成果を得た. a.電極基板の作製とセンサ特性の評価:試料作製時間の圧縮のため,センサ評価の基準となる反応をProteinG (PrG) - IgG 結合系からコルチゾール-抗コルチゾール抗体系に変更した.これにより,24h必要であった抗体固定化反応を2hに圧縮できた.実験の結果,コルチゾール濃度10E-12 - 10E-8 mol/L の範囲で対数濃度に比例した明確なEIS信号変化が得られ,電極評価用の基準センサとして使用可能であることが分かった. b.2電極基板の作製と評価:絶縁層材料をSiO2からSiN2に変更することで,歩留まりの向上と膜厚幅の自由度を広げた2電極基板を作製した. c:差分による非特異吸着成分の除去:上記の2電極基板を用いてコルチゾールセンサを作製したところ,両電極で同じ特性を持つセンサが得られた.この結果は,同一表面修飾のセンサであれば同じ特性を与えることを示しており,差分計測への目途が立った.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
Covid-19の蔓延に伴い,大学内入構制限や基板作製スケジュールの混乱で全体的な進捗に遅れが生じた.全体的な遅延を防ぐため,センサ特性の評価に用いる系をProteinG (PrG) - IgG 結合系からコルチゾール-抗コルチゾール(IgG)抗体系に変更した.この理由は以下の通りである.1)今年度,前者で用いるPrG試薬が入手し難くなり,全体的な遅れにつながる可能性があった.2)抗体固定化に伴う試料準備過程が前者は2日間,後者は1日間と半分で済むため,大幅なスピードアップが見込める. 後者系での測定可能性を確認する目的で,平行平板電極の表面上に抗コルチゾール抗体を固定化し,表面に吸着するコルチゾール量を計測するコルチゾールセンサを作製・評価した.ここでは,抗体と直接化学結合するDithiobis-succinimidyl-propionate (DTSP)の自己組織化膜をAu電極表面上に形成した後,抗体と反応させて短時間で抗コルチゾール抗体表面を作製する手法を新たに採用した.実験の結果,コルチゾール濃度10E-12 - 10E-8 mol/L の範囲で対数濃度に比例した明確なEIS信号変化が得られ,電極評価用の基準センサとして使用可能であることが分かった. 一方,2電極基板の試作は前倒しで進めることができた.絶縁層材料をSiO2からSiN2に変更することで歩留まりの向上と膜厚幅の自由度を広げ,2電極基板を作製した.この基板を用いてコルチゾールセンサを作製したところ,ほぼ同じ特性を持つセンサが得られた.この結果は,同一表面修飾のセンサであれば同じ特性を与えることを示しており,目的の一つである差分計測の目途が立った.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度においてもCovid-19の影響が見通せないことから,実行可能な部分から順次進めていく.まず2電極基板の開発と実験が順調に進んでいるため,この方向をさらに展開させる.ここでは抗体を修飾したセンサ表面とブロッキングのみを施したブランク表面の2種類の電極を,同一基板上に作り分ける手法を開発する.具体的には二つの電極と同じ位置に穴をあけた疎水性シートを基板にセットした後,電極上にできた窪みに抗体およびブロッキング分子を滴下し,修飾分子がお互いに混合しないようにして表面修飾の作り分ける予定である.このようにセンサ表面とブランク表面に作り分けられた2電極基板を用いて非特異吸着の評価を行い,様々な生体分子による非特異吸着がEIS測定にどの程度の影響を与えるかを評価する予定である.このような差分EISによる非特異吸着の評価は我々の知る限りこれまでに報告されたことがない.なお,計画では血中成分による非特異吸着を評価する予定であった,しかし測定対象をIgGからコルチゾールに変更したため,これに応じて評価する非特異吸着成分も再検討する予定である. 電流解析シミュレーションによる電極デザインの最適化についても進める予定である.昨年度,絶縁層材料をSiO2からSiN2に変更したことにより,より大きなギャップ間隔で基板作製が可能となった.現在のギャップ間隔で並行平板構造を作製すると,接触によるリーク電流が発生してセンサとして機能しない基板が頻繁に生じており,ギャップ間隔を再検討する必要がある.この接触は基板ホルダーで基板に圧力を加えて対面構造を保つ際にガラス基板がたわむためと推定され,接触は電極の直径に比例して生じやすくなると考えられる.そこで,シミュレーションによりギャップ間隔と直径の最適な組み合わせを再検討し,接触が生じずに均一な電流密度分布となるデザインを決定する予定である.
|