2021 Fiscal Year Research-status Report
二酸化炭素が促進する擬似液体層を介した氷蒸発過程のその場観察
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20K05315
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
長嶋 剣 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (60436079)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 氷 / 氷結晶 / 高分解能光学顕微法 / 酸性ガス / 不均一反応 / 二酸化炭素 / 干渉計 / 地球温暖化 |
Outline of Annual Research Achievements |
氷表面は大気中の非常にわずかな酸性ガス(二酸化炭素ガス、塩化水素ガス等)によって酸性液滴が出現し、氷の成長・蒸発に大きく影響を与える。本研究では高分解能光学顕微鏡により氷表面をその場観察することでこれらの影響を調べている。2年目にあたる2021年度(令和3年度)は、酸性液滴が氷の成長機構に与える影響の調査と、装置の改良を行った。 酸性ガスならびに過飽和水蒸気中で氷表面に出現する酸性液滴は、水蒸気の凝縮によって濃度が薄くなり平衡濃度からずれ、氷-酸性液滴界面での氷の成長が起こる。この現象はVLS(Vapor-Liquid-Solid)成長と呼ばれ結晶成長学分野ではよく知られているが、酸性ガスと氷との組み合わせでは研究代表者によって初めて確認されてきた。 本年度は面成長速度測定を行うことで、水蒸気から液滴を介さない気相成長速度R(vs)がVLS成長速度R(vls)を上回ることにより(R(vs) >> R(vls))、気相成長による氷分子ステップが酸性液滴に衝突するという現象が起こっていることを明らかにした。現状では、このような現象は低濃度の塩化水素ガス中でのみ見つかっており、高濃度塩化水素ガス、二酸化炭素ガス、硝酸ガスでは見られていない。今後はどのような条件でR(vs) >> R(vls)となるのかを調査する。 また実験装置の改良として、温度安定性を向上させるためにより細く高精度なサーミスタへの交換を行い、観察セルの改良によりセル内の温度不均質を改善した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画として昨年度に以下の3点をあげた:(1)蒸発速度測定手法の確立、(2)低温チャンバーの作成、(3)二酸化炭素ガス中での蒸発速度測定。今年度はサーミスタへの変更と観察セルの改良により、(1)では温度安定性改良による熱ドリフト軽減を実現し、(2)では観察セル内の熱勾配を改善できた。ただし、これらに時間がかかり(3)は予備的な測定しか行えなかった。 一方、研究実績の概要で述べたように、来年度予定していた「他の酸性ガスとの影響の比較」を本年度かなり行った。その結果、酸性液滴によるVLS成長と気相成長との競合によって氷成長メカニズムが大きく変わることを発見し、VLS成長と気相成長の面成長速度測定の重要性を示すことができた。 これらを勘案すると、トータルとしてはおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたるため、本年度予定されていながら十分に行えなかった「二酸化炭素ガス中での蒸発速度測定」を中心に行う。 最終年度に計画されていた「他の酸性ガスとの影響の比較」は、本年度塩化水素ガスについてかなりの部分を行ったため、硝酸ガスを中心に行う。 最後に3年間の研究成果をまとめ、二酸化炭素や酸性ガスの存在が氷表面への液滴出現にどのような影響を与えるのか、またその液滴は氷の成長・蒸発にどのような影響を与えるのかを議論する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由はCOVID-19の影響が大きく、学会がオンライン開催となり旅費・宿泊費等の使用がなくなったこと、出勤の制限により実験計画の変更を余儀なくされ消耗品等の支出が減ったことによる。 来年度については、現時点では出勤制限がなくなっているため実験計画通りに進められると考えられる。次年度使用額はこれまで出勤制限により十分に行えなかった装置の改良や学会参加等で使用する予定である。
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Research Products
(9 results)