2021 Fiscal Year Research-status Report
水熱合成法によるアナターゼ酸化チタン単結晶薄膜の成長メカニズムと局所構造の解明
Project/Area Number |
20K05323
|
Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
下村 勝 静岡大学, 工学部, 教授 (20292279)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 酸化チタン / アナターゼ / ヘテロエピタキシャル成長 / 蛍光X線ホログラフィ / ソルボサーマル法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、水熱合成法によって様々な元素のドーピングを施した大面積アナターゼ型酸化チタン薄膜をSrTiO3(STO)、LaAlO3(LAO)等の単結晶基板上にヘテロエピタキシャル成長させ、その成長メカニズムを解明することである。その後、大面積アナターゼ型酸化チタンの単結晶にNb, Gd, La等のドーピングを行い、ドーパント周辺の局所構造と電子状態を詳細に解明することである。 今年度は、LAO(001)単結晶を基板に用い、ソルボサーマル法を用いてアナターゼ型酸化チタンを成長させ、エルビウム(Er)のドーピングを試みた。完成した試料を用いて、大型放射光施設SPring-8において蛍光X線ホログラフィ(XFH)の実験を行い、ドーパントサイト周辺構造を原子分解能ホログラフィによって解析した。その結果、Erは主にTiサイトを置換していることが判明した。 以上のように、本年度の目標であったソルボサーマル法によってLAO単結晶基板上にアナターゼ酸化チタン膜をヘテロエピタキシャル成長させ、ドーパントサイトを明確にすることを達成できた。 理論計算についても、一定の成果が得られ、ランタノイドのドープによって電子状態がどのように変化するのか、また、酸素欠陥との関係についてまとめている。特に、Tiサイトを置換させた場合、バンドギャップ内にドーパント由来の電子状態がどのように現れるか、また酸素欠陥との距離、表面とバルクの違いに関わる情報が得られている。 これらの成果をもとに、本年度は、特許申請1件と論文投稿2件を行った。論文については、いずれも査読中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、LaAlO3(LAO)単結晶上にTiO2アナターゼ結晶をソルボサーマル法によってヘテロエピタキシャルアナターゼ成長させた上、Erをドープし、そのドーパントサイトを解明するところまで、達成できた。 蛍光X線ホログラフィーの実験結果の解析は、複雑な過程や経験を必要とするため、時間を要するが、ErがTiサイトに置換されていることを証明できたことの意義は非常に大きく、学術的のみならず、工業的にも重要な知見である。 このため、本研究成果を元にして、特許を申請した。また、学術論文も投稿済みで、現在、査読中の段階である。 また、成長条件についても、改良を進めており、1回の成長でミクロン単位の膜厚が達成できるところまで到達している。この点については、当初の計画よりも進展している。あいちシンクロトロンにて、光電子回折の実験も試みたが、こちらはLAO基板のチャージアップのため計測ができなかった。このため、予想以上の進展という実績までは至らなかった。 以上のように、研究の進展とそのアウトプットの両面において、おおむね計画通りに、順調に進展していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、次の5つの方向を考えている。 1) 導電性のLAO基板を使用して、角度分解光電子微細構造(ARPEFS)の実験を試みる。2) Er以外のランタノイドのドーピングを行う。3) 下地をSrTiO3にした場合の成長様式の変化を評価する。4) 理論計算によって、ランタノイドと酸素欠陥の関係について明らかにする。5)ヘテロエピタキシャル成長したアナターゼ薄膜を加熱することで結晶性や導電性がどのように変化するのかを評価する。 以上の研究によって、当初の目的である、以下の2点の両方をほぼ達成することができる。A) 水熱合成法によって大面積アナターゼ型酸化チタン単結晶薄膜を成長させ、その成長メカニズムを解明する。B) 大面積アナターゼ型酸化チタンの単結晶にNb, Gd, La等のドーピングを行い、ドーパント周辺の局所構造と電子状態を詳細に解明する。
|