2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of surface structure analysis method using Kikuchi pattern
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20K05330
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
重田 諭吉 横浜市立大学, 生命ナノシステム科学研究科(八景キャンパス), 客員教授 (70106293)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 表面構造解析 / 反射高速電子線回折 / 菊池パターン / 非弾性散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、表面構造の解析法として菊池パターンを用いる新たな測定手法の確立を目的として実施された。菊池パターンは非弾性散乱により形成された二次的入射波が種々の方向から入射し、その回折波により直線状または曲線状の像を形成されたものであるため、入射条件を変化させて得られる多くの回折情報を含んでいる。種々の回折条件における情報は詳細な表面構造の解析に非常に有用であり、非弾性散乱確率を求めることで1枚の菊池パターンから微細な表面構造解析を行うことが可能と成る。 令和2年度は、菊池パターンの振る舞いを把握するために、菊池パターンの強度分布の解析および本研究費で購入した高精度高圧電源を組み込んだエネルギーフィルターを用いた回折像から非弾性散乱電子の強度測定を行った。その結果、やや粗いが表面プラズモンと個体プラズモンによるエネルギー損失スペクトルとその分布に関する基本的な結果を得ることができた。また、エネルギー損失スペクトルの測定と並行して動力学的回折理論を考慮した強度計算を行った。245波を考慮した多波計算と00-反射強度の計算から求めた菊池パターンと組み合わせ実験的データと比較することにより、非弾性散乱確率を大雑把ではあるが評価できた。 今年度は、新型コロナ感染防止の影響で、実験場所である原子力科学研究センターへの立ち入りが暮れまで出来なかったため、実験スケジュールが大幅に遅れたが研究協力者との綿密な連絡により、十分な実験準備が出来たことから2回の出張で効率的に測定を進めることができ基本的な結果をえることができた。その結果、来年度に向けた修正箇所の洗い出しができた。成果発表では、国際会議への参加が新型コロナの影響で出来なかったが、来年度にはこれまでの結果をまとめて国際会議等に発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度当初は、エネルギーフィルターの光学系を作成する予定であったが、実験協力者の日本原子力研究開発機構の研究主幹、深谷有喜博士の所有する阻止電位型の光学系が利用できることが分かり、この光学系に阻止電位を印加する高精度電源を購入し実験を開始した。この高精度高圧電源の性能は、15kVの高電圧出力時に、リップル:0.15V(10ppm)、安定度:0.75V(50ppm)と非常に安定であり、電圧制御に関しても20kVまで1V単位でデジタル制御できることが特徴である。これにより、15kV前後の阻止電圧を1V単位で制御でき、Si表面の非弾性散乱(表面プラズモン(SP:11eV)と固体プラズモン(BP:17eV))によるエネルギー損失ピークの識別が可能となった。 これまでの結果として、(1)菊池線と鏡面反射点が重なる条件では非弾性散乱強度の角度依存性が鏡面反射点を中心に二つのガウス分布で近似でき、フォノン散乱とBPによる非弾性散乱の影響と考えられる;(2)これに対し、表面に平行な回折波を同時に励起する条件で現れる菊池エンベロープの低角側の散乱強度は、前述の二つのガウス分布に加え散乱ベクトルが0.3Å-1程度にピークを持つガウス分布を考慮しないと実験結果が説明できない。そこで、菊池エンベロープと鏡面反射点が重なる入射条件で阻止電圧を変化させ回折像を連続的に撮影した結果、低角側の強度はSPを励起したことによる非弾性散乱強度であることが分かった。 シミュレーションでは、視射角と方位角を変化させて計算した00反射強度の二次元パターンと回折スポットの強度を組み合わせることで、各視射角に対応する菊池パターンがほぼ再現されることが分かったが、菊池エンベロープに関係する強度分布が再現できなかった。これは表面波共鳴条件におけるSPの励起確率がBPのそれに比べ大きいためと考えられるため、修正を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度、菊池像の菊池エンベロープに注目し、阻止電位型のエネルギーフィルターを用いてそのエネルギー損失に対応したパターンを測定し、その強度変化からエネルギー損失スペクトルを求めたが、阻止電位型の光学系のグリッドが平面型であるためエネルギー分解能が余りよくない結果となっている。平面グリッドに15keVの電子線が垂直から1°の角度で入射した場合、エネルギーが2.28eV高くないと通過できない。そのため、角度のついた電子線のエネルギー分別に大きな影響を与えると考えられる。そこで、グリッドの形状を球面型に変更することを計画している。予算としては、今年度予定していた国際会議への出張旅費の未使用分が繰り越されているため、その予算を有効活用すること考えている。 菊池パターンのシミュレーションでは、これまで視射角・方位角を変化させて計算した00反射強度の分布を菊池パターンとして解析してきた。一般に00反射強度がパターンの中で圧倒的に強いので、ほぼ菊池パターンと一致するが、特殊な条件(表面波共鳴条件など)では回折波の強度が00反射の強度を上回ることが観測されているので、観測領域に現れる回折波の強度をすべて取り込んで視射角・方位角を変化させて計算し、正確な菊池パターンをシミュレーションしたいと考えている。現在、動力学的回折理論で考慮するrod数をFortranソフトの限界である245rod(245波)の多波計算のプログラムを製作しており、視射角が0°~8°を0.05°刻み、方位角を0°~3°を0.05°刻みで計算すると計算時間が約2か月程度で結果が得られると見積もっている。
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Causes of Carryover |
当初予算計上していた国際会議参加旅費に関して、新型コロナの影響で会議が次年度に延期となり、旅費に約38万円の残高が発生した。
残金額の38万円は、令和3年度にエネルギーフィルターの光学系の性能向上のための改修に有効利用したいと考えている。
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