2020 Fiscal Year Research-status Report
First-principles calculation study of the long-range restructuring of noble-metal surfaces
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20K05333
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
石田 浩 日本大学, 文理学部, 教授 (60184537)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 表面再構成 / モアレ構造 / 第一原理計算 / 半無限表面 / エムベディッドGreen関数法 / グラフェン |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) Ir(111)表面上で長周期モアレ構造をなすグラフェン吸着層の電子構造を調べた。この系では、Ir(111)の9x9超格子とグラフェンの10x10超格子が整合し、グラフェン原子膜は面垂直方向に波打った構造をとる。エムベッディッドGreen関数法とフルポテンシャル線形化平面波(FLAPW)法を組み合せた電子構造計算プログラムを用いて、通常の薄膜モデルではなく、半無限吸着系の電子構造を計算した。その結果、グラフェンの2次元ディラックバンドが交差するディラック点が、フェルミ準位より約0.5eV上にあり0.2eV程度の広い幅をもつこと、πバンドがIrの5d原子軌道との混成により30meV程度のスピン分裂を示すこと、グラフェンの10x10長周期構造に対応するミニブリュアンゾーン境界で、πバンドとπバンドのレプリカが交差して0.1~0.3eV程度のミニエネルギーギャップを作ること等がわかった。得られた結果をPhysical Review B誌に出版した。
(2) Au(111)清浄表面で観測される22x√3ヘリングボーン再構成構造の安定原子配置と電子構造を調べた。表面の安定原子配置は、6原子層の薄膜モデルを用いて、PAW電子構造計算プログラムVASPにより決定した。1x1構造を仮定したテスト計算の結果、Au(111)表面ブリュアン域Γ点におけるL-gap表面準位の実験値を再現するために、(111)面内の格子定数とバルク領域の面間距離を実験値にとる必要があることがわかったため、これら2パラメータを固定して、表面4原子層の原子配置を最適化した。得られた表面原子配置を用いて、エムベッディッドGreen関数法とFLAPW法を組み合せた計算プログラムにより、半無限Au(111)再構成表面のセルフコンシステントな電子密度分布を計算している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)研究申請時には計画していなかった長周期グラフェン/Ir(111)表面の電子構造を、エムベッディッドGreen関数法で計算した。Ir下地金属がグラフェンのディラックバンドに与える影響を解明して、その成果をPhysical Review Bに発表できた。この点において研究は当初の計画以上に進展した。
(2)Au結晶の格子定数の実験値は4.08Åであるが、密度汎関数法での計算値は局所密度近似(LDA)では4.04Å、一般化勾配近似(GGA)では4.15Åとなる。実験値との差は2%未満であるが、この違いがAu(111)表面のL-gap表面準位に大きな影響を与えることがわかった。Γ点におけるL-gap表面準位は、実験ではフェルミ準位から見て約-0.48eVの位置にある。一方、簡単のため再構成の無い1x1表面で計算すると、格子定数がLDA値では同エネルギー準位は-0.57eVと過大評価され、格子定数がGGA値では-0.29eVと過小評価される。僅か1%の格子定数の変化が表面準位のエネルギーを20%程度変えてしまう。従って、L-gap表面準位の実験値を再現するためには、格子定数を実験値に取って計算しなければならないことになる。はじめ、この事実を予想せずGGAの格子定数4.15Åを用いて、22x√3構造のAu(111)表面の原子配置をVASPで決定して、エムベッディッドGreen関数法によりAu(111)再構成表面の電子構造を計算したため、Γ点におけるL-gap表面準位がフェルミ準位から見て-0.3eV以下となってしまった。今年度調達したワークステーションを用いて、これらの計算に2か月強の時間を要した。結局、格子定数を実験値4.08Åに取って最適原子構造の計算からやり直すことになったため、進捗状況がやや遅くなった。
(1)、(2)を合せて本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、Au(111)22x√3ヘリングボーン再構成表面の電子構造の研究を完成する。現在、実験の格子定数を使って得られた22x√3安定原子配置を用いて、エムベッディッドGreen関数法とFLAPW法を組み合せた電子構造計算プログラムにより、半無限表面のセルフコンシステント電子密度を計算している。計算収束後、22x√3長周期構造が、L-gap表面準位のエネルギー分散に与える影響を詳細に調べる。22×√3構造では、Γ-K方向(原子鎖方向)のブリュアン域は幾重にも折り畳まれるため、表面バンドはバルク連続準位と重なり共鳴準位になり、同時にゾーン境界で表面バンドにエネルギーギャップが生じるはずである。エムベッディッドGreen関数法を用いた半無限表面系の電子構造計算により、これら共鳴準位のエネルギー幅とミニエネルギーギャップの大きさを正確に決定する。 次に、Au(001)表面第1層の長周期再構成構造(六方最密格子)が表面電子構造に与える解明する。そのため、実験で観測された5×N(Nは20~30)長周期構造を用いてAu(001)表面の原子配置をVASPプログラムにより決定する。続いて、エムベッディッドGreen関数法とFLAPW法を組み合せた電子構造計算プログラムにより、半無限Au(001)表面の電子構造を計算し、表面バンドのエネルギー分散を光電子分光の結果と比較する。また自由電子的な鏡像ポテンシャル状態の有効質量が、表面の長周期構造でどう変化するかを調べ実験と比較する。
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Causes of Carryover |
今年度は1,600,000円を物品費に計上したが、調達したワークステーションの価格が1,499,992円であったため、100,058円の差額が生じた。また、オープンアクセス論文投稿料として、その他の予算に200,000円を計上したが、論文を掲載したPhysical Review B誌のオープンアクセス投稿料が、2020年に限り50%オフであったため、67,863円の差額が生じた。これらを合計して167,921円の次年度使用額が生じた。この額は次年度交付金額と合わせて、物品費、オープンアクセス論文投稿料、国内外の旅費に使用したい。
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Research Products
(6 results)