2020 Fiscal Year Research-status Report
IV族元素を用いたダイヤモンド発光センターの作製および応用に関する研究
Project/Area Number |
20K05363
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Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
中尾 基 九州工業大学, 大学院工学研究院, 教授 (70336816)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
犬伏 俊郎 立命館大学, 総合科学技術研究機構, 教授 (20213142) [Withdrawn]
小松 直樹 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (30253008)
長町 信治 滋賀医科大学, 神経難病研究センター, 客員教授 (80447002)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ダイヤモンド / カラーセンター / シリコン-空孔センター / 発光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイヤモンドの発光センターは、化学的安定性とともにその蛍光体が分解、褪色、明滅を示さないために、生体イメージングのプローブとして期待されている。これまで、ダイヤモンド中の窒素-空孔センターが盛んに研究されてきたが、そのスピンコヒーレンス時間が短いことや、ゼロフォノン線の発光強度が発光全体に対して約4%と小さいなどの課題も少なくない。そこでこれらの課題を克服するIV族元素を用いたダイヤモンド発光センターの形成、評価を試みている。ダイヤモンドカラーセンターの中でも、Si不純物由来のシリコン-空孔センターは、人体を透過しやすい波長領域で蛍光するため、バイオマーカーとして特に有望である。 本研究では今年度、シリコン基板上への熱フィラメントCVD法により作製したダイヤモンド膜に関して、製膜条件、および製膜後処理の様々なパラメーターに対するシリコン-空孔センターの発光特性の評価を行った。また、ダイヤモンド薄膜のナノ粒子化に向けた基板材料の変更も検討した。 従来まで熱フィラメントCVD法でのダイヤモンド製膜において、フィラメントは基板上に1本のみで実施していたが、並列に複数本を設置できるように装置を改造し、発光特性の再現性、ならびに発光強度の増大化に成功した。また、製膜時の基板温度を変化させるために基板温度用ヒータを装置内に設置し、発光特性において強い基板温度特性が存在することを示すことができた。さらに、ダイヤモンド製膜後のポストアニールにおいて、具体的には簡単な大気アニールを実施することで、シリコン-空孔センターの発光特性を向上させることができた。加えて、ダイヤモンド薄膜成長用の基板材料をシリコン基板から変更することで、ナノ粒子形成のためのダイヤモンド薄膜の剥離の可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における申請書の実施事項は、「1.熱フィラメントCVD装置の改良」、「2.イオン照射、電子線照射条件、アニール条件の検討と実験」、および「3.ナノダイヤモンド化するための予備実験」、の3項目であった。 1.熱フィラメントCVD装置の改良については、まず、装置内に設置しているフィラメントの構造変更を行った。ダイヤモンド薄膜の成長には従来まで、そのフィラメントは基板上に1本のみで実施していたが、並列に複数本を設置できるように装置を改造することで、形成されるダイヤモンド薄膜の面内分布(均一性)、再現性、さらにはシリコン-空孔カラーセンターの発光特性が増大化した。また、成長するダイヤモンド薄膜への基板温度依存性を独立に評価するために、装置内に基板温度用ヒーターを導入し、発光特性等における簡単な基板温度依存性に関する実験を行った。結果、基板温度が700℃程度で発光特性の良いダイヤモンド薄膜がえられた。 2.イオン照射、電子線照射条件、アニール条件の検討と実験については、ダイヤモンド薄膜成長後のアニール処理を実施することで、シリコン-空孔カラーセンターの発光特性への影響を抽出した。様々な温度での真空アニール、および大気アニール等を実施し、700℃程度での大気アニール処理で、シリコン-空孔カラーセンターの発光特性の向上が見られた。加えて、アニール時間においても発光特性の変化が確認されていることから今後、ポストアニール条件の最適化に努める。 3.ナノダイヤモンド化するための予備実験については、ダイヤモンド薄膜成長の基板材料をシリコン基板からタンタル基板に変更することで、基板から剥離しやすいダイヤモンド膜の形成に成功している。なお、タンタル基板上へのダイヤモンド薄膜において、ダイヤモンド膜質および発光特性等に関して、シリコン基板上のものと同等の結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題名は、IV族元素を用いたダイヤモンド発光センターの作製および応用に関する研究であり、IV族元素の代表であるシリコン元素でのダイヤモンド発光センターの特性については、令和2年度(初年度)に非常に多くの知見を得ることができた。特に熱フィラメントCVD装置の改造を令和2年度(初年度)、重点的に実施したことにより、カラーセンター発光特性をもつダイヤモンド薄膜形成の製膜条件のプロセスウインドウを大きく増大させることに成功した。さらに良好な製膜条件抽出もできたことより、令和3年度以降は主に、令和2年度に他機関装置等の影響により進めることができなかった、製膜後の処理、具体的には、イオン照射や電子線照射を実施し、カラーセンター発光特性のさらなる向上を推進する。 また、基板材料からのダイヤモンド薄膜を剥離させる手法を見出せたことを受けて、剥離されたダイヤモンド薄膜自体の発光特性を評価する。また、その剥離ダイヤモンド薄膜をナノ粒子化させるための粉砕方法等の検討も行う。最終的には、その先のナノ粒子化されたダイヤモンドからのカラーセンター発光特性の評価等を行うことで、生体イメージング蛍光材料としての可能性を切り開くことができると考えている。 さらに令和3年度以降は、他のIV族元素であるGe、Sn、およびPbについてのダイヤモンド発光センターの探索を進める。まず、Ge、Sn、およびPb元素をダイヤモンド薄膜に導入する方法の検討を始め、それを受けて、それぞれの元素のカラーセンターの形成、および発光特性の評価を推進する。
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