2021 Fiscal Year Research-status Report
Sea Glassに学ぶガラス固化体の化学的安定性評価シミュレーションの基礎開発
Project/Area Number |
20K05379
|
Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
澤口 直哉 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 准教授 (40357174)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | アルカリホウ酸塩ガラス / 分子動力学法 / 三体間相互作用関数 / 原子間相互作用 / 4配位ホウ素 / アルカリケイ酸塩ガラス |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 昨年の継続で、ホウ酸塩融体/ガラスの古典的分子動力学へ適用する原子間相互作用の改善を進めた。導入した三体間相互作用を調整した結果、シミュレーション結果における B-O-B-Oで構成される二員環(実際のガラス中には存在しないと考えられる)の生成量を低減することに成功した。ただし、ガラス構造をさらに最適化することを優先することにし、計画していた計算規模を10000あるいは30000原子へ拡張することを先延ばししている。 (2) 実施計画の2年目の予定に従い、ナトリウムケイ酸塩融体/ガラスを対象とした分子動力学シミュレーションに着手した。目標の一つを、実在ガラスとシミュレーション結果が一致していない、5種類のSiO4四面体のうちのQ3と呼ぶ種類の存在比の改善に定めた。改善方法として、次の仮説に従ってシミュレーションを改良し、その結果を検証することにした。仮説:「Q3近傍にはナトリウムイオン(Na+)が存在する可能性が高い。しかし、シミュレーション結果ではガラス中のNa+の存在位置が偏っており、Q3の存在比にも影響がでている。」この状況の改善を図り、Na-Na間の従来の静電反発項に新しい反発項を加え、Na+を分散させることを試みた。この新しい原子間相互作用は前例がないため、適切な結晶を用いて結晶構造が崩壊しない程度の反発項を用意した。計算には3体間原子間相互作用も利用し、こちらの調整も同時に試みた。現在得られている結果では、Q3の存在比には3体間原子間相互作用の調整の方が影響し易く、Na-Na反発項の影響は僅かである。これは後者を弱くしか作用させなかったためとも考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目指すところは、高レベル放射性廃棄物の地層処分で重要であるガラス固化体の長期的安定性の検証に役立つガラスの原子・分子レベルの構造情報を、分子動力学法から得られるようにすることである。そのために、基本的な組成であるホウ酸塩ガラスとケイ酸塩ガラスを中心に、シミュレーションによる実在ガラスの原子・分子構造の再現性の向上を目指している。それぞれのガラスの特徴的な原子・分子構造の再現性を評価指標とし、再現性を満足するように、原子間相互作用の改善を試みてきた。 (1) ホウ酸塩: 3体間原子間相互作用を導入し、B-O-B-O-二員環の抑制はある程度成功した。しかし一方で、ガラスの密度と4配位ホウ素BO4の存在比は実測から外れている。これら3つの指標すべてを満足する原子間相互作用の開発が必要である。 (2) ケイ酸塩: SiO4四面体の5種 Q4,Q3,Q2,Q1,Q0の存在比は、このガラスの物理的、化学的特性を決定する重要な指標と考えている。シミュレーションでは、Q3の存在比が実測よりも低く、Q4とQ1が多い状態である。現在Na-Na相互作用の調整に加えた改善案を検討中である。また、計画で示したように、シミュレーションを高温(3000 K)から開始し、300 Kのガラス状態を得る、冷却過程の設計にも取り組む予定である。現在は、最適な原子間相互作用の抽出を優先し、冷却過程の考察には至っていない。一方、現在はケイ酸塩の原子間相互作用は 1500 Kの融体状態で行ってきた。今年度の計画に、ガラス状態で最適な原子間相互作用の変数セットを、融体を用いて探索する試みを掲げてあった。これを実践したものである。成果としては、効果の程は曖昧であるというべきである。
|
Strategy for Future Research Activity |
(1) ホウ酸塩へ適用する新たな3体間原子間相互作用を組み込んだソフトウェアの検証に取り組み、利用可能にする。これまで進めてきた相互作用から新しい相互作用へスムーズに移行したい。 (2) 整備した計算機を用い、並列計算システムを完成させる。現在はソフトウェアの整備が遅れている。当計算システムを用い、大規模シミュレーションを実施する。原子数を増やすことにより、ガラス構造の再現性評価の精度の向上が見込める。 (3) 計算コストが高くなる300 Kのガラス状態まで冷却するシミュレーションを避け、融液状態のシミュレーションを用いて、ガラス状態にも適用できる原子間相互作用を探索する手法の検証に関しては、一層丁寧な検討が必要である。1500 Kに加えて例えば1000 K で評価を行うこと、長尺(大規模ステップ数)のシミュレーションによる検証などを加え、検討を進める。 (4) ホウ酸塩ガラス、ケイ酸塩ガラスの分子動力学計算を経て、ホウケイ酸塩を扱いたいと考えている。これまでの検討で、共通して存在してる酸化物イオンとナトリウムイオンの変数(電荷、他)値がガラス構造の再現に重要であると予想される。これへ着目し、ホウケイ酸塩のシミュレーションに着手し、実在ガラスの構造を再現可能な原子間相互作用の提案を目指す。
|
Causes of Carryover |
令和3年度の研究に必要な物品は揃えることができたので、残額を繰り越し、令和4年度に研究報告を行う旅費に充当したい。
|
Research Products
(1 results)