2020 Fiscal Year Research-status Report
量子力学的手法と分子動力学法を組み合わせた光化学反応経路を制御する動的因子の解析
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20K05423
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
松原 世明 神奈川大学, 理学部, 教授 (60239069)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光励起反応 / 円錐交差 / 反応経路選択 / 動的因子 / 量子力学計算 / 分子動力学計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、有機材料や天然物合成といった分野で光化学反応の研究が活発になり、光化学反応の最先端分野への応用が注目を集めている。これらの光化学反応では、異なる電子状態間のエネルギー面の円錐交差を経由して反応が進行するため、円錐交差点で存在する分かれ道のどの経路をとるかが反応制御において重要である。しかしながら、その経路選択の理由は解明されておらず、その理由を明らかにするためには量子力学的手法と分子動力学法を組み合わせ、動力学的観点から円錐交差点の経路選択を解析する必要がある。本研究では、円錐交差点の経路選択における動的因子の解析法を構築し、経路選択している動的因子を解明することを目的としている。 本年度は、計画していた反応の1つであるs-cis-1,3-ブタジエンの光化学反応について研究を行った。S2状態に励起されたs-cis-1,3-ブタジエンは、S2/S1とそれに続くS1/S0円錐交差(CI)を介して緩和される。S1/S0-CIで分岐した反応チャネルによって、トランスおよびシス異性体、シクロブテン、ビシクロブタン、およびメチレンシクロプロピルジラジカルが生成する。それらの生成物はある比率で生成するが、その理由はこれまで完全に解明されていなかった。非断熱分子動力学法を用い解析した結果、各生成物の比率は、各生成物のS1/S0-CIでの∠C-C-C-C二面角の許容範囲で理解できた。また、1,3-ブタジエンの代わりに2,3-ジメチル-1,3-ブタジエンを使用し、S1/S0-CIでの∠C-C-C-C二面角の変動を小さくすると、各生成物の比率が変化することが分かった。このように、動的因子が生成物分布を決定する重要な因子であることが明らかになった。次年度は、計画していた他の光化学反応について研究を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、1. ブタジエンの光反応、2. ベンゼンの光異性化反応、3. cis-bicyclo[4.2.0]oct-7-eneの光開環反応、4. フリルエノンの光環化反応、5. 紫外線によるDNA損傷機構ついて解析を行うことを計画していた。1のブタジエンの光反応については、「研究実績の概要」で述べたように、S1/S0円錐交差での反応経路選択において動的因子が重要な役割を果たしていることを明らかにした。その結果をまとめ、既に論文として発表している。その他の2-4の反応につては、円錐交差等の量子力学計算を終え、さらに円錐交差における反応経路選択の動的因子を解析するための非断熱分子動力学計算も進んでおり、おおむね順調に進行していると言える。ただし、次年度は、「今後の研究の推進方策」で述べるように、2-5よりも優先して進めた方がよいと判断された新たな反応テーマが見つかったので、そのテーマを取り入れ解析する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で述べたように、当初計画していたテーマについて概ね順調に進行していると言える。しかしながら、研究を進めていく中で、光励起反応の円錐交差における経路選択に関わる動的因子の解明の目的を達成するために優先して進めた方がよいと判断された新たな光励起反応が見つかったので、そのテーマを優先して解析する予定である。そのテーマについても円錐交差等の量子力学計算を終え、円錐交差における反応経路選択の動的因子を解析するための非断熱分子動力学計算も進んでいる。新規反応テーマの解析から得られた情報を2-5のテーマにフィードバックし、2-5のテーマも遂行する予定である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」、「今後の研究の推進方策」に述べた新規反応テーマを取り入れた解析を効率よく遂行するにあたり、現状の計算機構築体系では充分な結果を得られないと判断し、計算能力向上のための費用に充てる。
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