2021 Fiscal Year Research-status Report
高圧下中性子回折を駆使した氷の水素結合対称化の直接観察
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20K05425
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Research Institution | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
Principal Investigator |
町田 真一 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 研究員 (30554373)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 氷 / 水素結合対称化 / 中性子回折 / 結晶構造解析 / 高圧 / ダイヤモンドアンビルセル |
Outline of Annual Research Achievements |
氷は超高圧下で、結晶構造内の水素原子が隣接酸素原子間の中央に配置される、水素結合対称化が起きると予測されている。対称化後の氷はその物性が大きく変化すると考えられ、これまでにこれを調べる研究が多くなされてきたが、従来の実験手法では対称化の直接的な証拠を捉えることは困難であった。そこで本研究では、水素原子を直接観測できる中性子回折実験の手法で、この対称化を解明すること目的とした。 本研究目的を達成するためには、100万気圧のような超高圧下での氷の中性子回折実験が必要となる。そこで本研究では高圧発生装置として、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)装置の開発を進めている。DACとは、先端を平らにした2つのダイヤモンドアンビルで、ガスケットと呼ばれる金属板を挟むことで加圧を行う装置であり、ダイヤモンドを用いていることから超高圧の発生が可能となる。昨年度は本装置を用いることで、氷の70万気圧までの中性子回折実験に成功した。しかしながら、得られた回折パターンにはガスケットに使用している金属由来の回折線が混入してしまうため、氷の詳細な構造解析を行うことは困難であった。そこで本年度は、中性子実験において回折線が発生しない、いわゆるnull素材のガスケットの開発に取り組み始めた。様々な合金を用いてテスト実験を行った結果、Mnを含む合金においてnull素材の開発に成功し、試料のみの中性子回折パターンを得ることができるようになった。 以上の成果により、精度の高い高圧中性子回折実験を実現することができるようになった。さらに、本研究で開発した合金は高圧実験での利用にとどまらず、他の中性子実験用セルのnull素材材料として利用できることが期待され、本年度の研究により想定以上の成果を上げることができたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を利用した高圧中性子回折実験では、これまで、ガスケット金属を由来とする回折線が混入してしまうことは、避けることができない考えられていた。実際に、DACを利用した高圧中性子回折実験に関する先行研究では、ガスケットと測定試料の共存状態として構造解析が行われており、本研究においても同様の解析を行うことを考えていた。しかしながら、本課題における実験において、ガスケット由来の回折線を含んだ回折パターンでは、氷の構造解析の精度が著しく落ちることが明らかとなった。そこで本年度、当初の研究課題では計画をしていなかった、null素材のガスケットの開発に取り組んだ。 このような計画外の開発研究を行ったため、当初に計画をしていた実験を行うことができなかった一方で、本年度の成果として、null素材のガスケットを見出すことに成功した。このことで、DACを利用した高圧中性子回折実験において、ガスケット金属由来の回折線の混入を避けて、試料からの回折線のみを得ることができるようになり、高精度の氷の構造解析を行うことが可能となった。 また、本年度、新たなダイヤモンドアンビルの形状の開発にも取り組み、現在テスト実験を行っている。本アンビルを用いることで、100万気圧を超える超高圧下での中性子回折実験の実現が期待される。以上のように、本年度の開発研究により、氷の水素結合対称化の解明を行うための高圧中性子実験実施の見込みを立てることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の開発研究により、ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を利用した、氷の高圧中性子回折実験を行うための装置環境を整えることができた。今後、これらの装置を用いて、100万気圧を超える圧力下で氷の高圧中性子回折実験を行う計画である。得られた中性子回折パターンにより、氷の超高圧下における結晶構造を明らかにして、水素結合の対称化の解明を目指す。 また、氷の実験と共に水素ハイドレートの高圧中性子実験を行うことを計画している。水素ハイドレートとは、水と水素が共存状態において加圧を行うと生成される物質であり、水分子がフレームワーク構造を形成して水素分子を内包する固体結晶である。このフレームワーク構造は水分子の水素結合によって形成されるため、このフレームワーク水分子においても高圧下で水素結合対称化が起きることが予言されている。そこで、水素ハイドレートの高圧中性子回折実験により、ハイドレート構造中の水素結合対称化をとらえることを目指す。氷とガスハイドレートの高圧下での振る舞いの共通点から氷構造の水素結合対称化に関する、一般的・統合的な知見を取り付けたいと考えている。
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Research Products
(2 results)