2020 Fiscal Year Research-status Report
Verification of the hydrophobic interaction hypothesis in protein structural stability and theoretical/experimental study on cosolvent effects
Project/Area Number |
20K05431
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
墨 智成 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (40345955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ドラッグナノキャリア / 高分子ミセル / 小角X線散乱 / アルコール水溶液 / TFE / ヘリックス誘導 / 濃度揺らぎ / Kirkwood-Buff 積分 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)アルコール添加は顕著なヘリックス誘導能を示す事が知られており,タンパク質を囲むミセル様構造の形成が,濃度揺らぎによって促進されると示唆されてきた.本研究では小角X線散乱測定を用いて,濃度揺らぎが大きい2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)のKirkwood-Buff(KBIs)積分を決定することにより不均一性を定量化した.これにより,TFE分子の凝集はヘリックス誘導に必ずしも必要ないことを示した.モデルタンパク質メリチンに関して,分光測定によって決定されたヘリックス含有量と本研究によるTFE水溶液のKBIsを用いた熱力学的解析により,TFEのメリチンに対する選択的溶媒和パタメターを算出した.その結果,TFEによるヘリックス形成には二つの異なる領域が存在することを見出した.一つはTFE 2M以下のTFE分子に凝集がない希薄領域でヘリックスとTFEとの直接相互作用により選択的溶媒和が形成されていた.もう一つはTFE分子の凝集により選択的溶媒和がより強化される高濃度領域であり,これらはタンパク質に依存しない普遍的な共溶媒効果であることを実証した.(2) 優れた薬物送達作用を持つドラッグナノキャリアとして知られる高分子ミセルが,治療薬を取り込んだ状態での,システム中の相互作用場の解明に成功した.これにより,従来の技術では困難であったナノキャリア間の集合や分散の状態を正確に把握することができるようになり,システムが特徴的に示す徐放性などの薬物送達作用の基本的メカニズムを理解することが可能となった.本研究で用いた手法は,複雑な環境でのその場観測が可能であり,各種薬物への適用や体内条件での知見を得ることができるため,今後のドラッグナノキャリアの研究において,難溶解性薬物の薬理効果を高め,治療薬投与における身体的精神的な負担を軽減する技術の開発などへの貢献が期待される.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,大きく分けて二つの問題をターゲットに理論と実験による研究を進めている.一つはタンパク質構造安定性における水の役割,特に疎水性相互作用について明らかにする.もう一つはタンパク質構造安定性における共溶媒効果を明らかにする事であり,今年度は主に後者に関して大きく進展した.具体的には,アルコールによるヘリックス誘導に関して,アルコール水溶液の濃度揺らぎが強く関与するヘリックス誘導メカニズムと,濃度揺らぎに依存しない,アルコール-ヘリックス間直接相互作用によるヘリックス安定化メカニズムが存在することを明らかにした.共溶媒効果に関する分子シミュレーションによる解析は,本知見をベースに進めてゆく.
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Strategy for Future Research Activity |
ロイシンジッパーと呼ばれる,いわゆる疎水性相互作用によって安定化するGCN4-p1コイルドコイルヘリックスをモデルタンパク質として用いた分子動力学シミュレーションを行い,天然構造安定性における水の役割を明らかにする.また,同タンパク質を用いて,尿素による変性およびTFEによるヘリックス安定化における選択的溶媒和の分子メカニズムを明らかにすべく,濃度揺らぎの効果が無視できる希薄領域での分子動力学シミュレーションを実施し,解析を進めてゆく.
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響で、予定していた国内・海外出張が中止または延期になった事が理由としてある.延期になった国際学会は2021年度に開催予定である。
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