2021 Fiscal Year Research-status Report
Verification of the hydrophobic interaction hypothesis in protein structural stability and theoretical/experimental study on cosolvent effects
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20K05431
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
墨 智成 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (40345955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | Kauzmann疎水性相互作用仮説 / タンパク質 / 熱力学的安定性 / GCN4-p1 / 液体の密度汎関数理論 / アルコール水溶液 / 2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE) / ヘリックス誘導 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) Kauzmann疎水性相互作用仮説」(1959年) は生化学や分子生物学の教科書で必ず解説されている学説であり,約60年もの間,タンパク質構造安定性の理論として中心的役割を果たしてきた.本研究では,Kauzmann仮説を理論的に検証すべく,ロイシンジッパーと呼ばれる疎水性相互作用によって安定化する典型的モデルタンパク質,GCN4-p1を採用し,分子動力学シミュレーション(MD)と独自に開発した液体の密度汎関数理論を駆使して,疎水性相互作用の物理化学的起源の解明を試みた.その結果,水はタンパク質のアンフォールディングに伴う非極性基の露出において,むしろ安定化に寄与し,いわゆる「疎水基」は水を嫌っていないことを定量的に示し,天然構造の安定性は,タンパク質内に働く直接分子間相互作用に起因することを示した.
(2)アルコールの中でも2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)は顕著なHelix誘導能を示すことが知られており,TFE水溶液の大きな濃度揺らぎがその主要な物理化学的要因であると考えられてきた.前年度は,小角X線散乱測定によって決定されたTFE水溶液のKirkwood-Buff(KB)積分に基づく解析から,TFE分子の凝集はヘリックス誘導に必ずしも必要ではなく,HelixとTFEとの直接分子間相互作用に起因する選択的溶媒和が,Helix誘導能に関与している事を示した.今年度は,TFEの選択的溶媒和の微視的メカニズムを明らかにすべく,GCN4-p1をモデルタンパク質として採用し,TFE水溶液中でのMDから,Helix二量体並びにランダムコイルとTFE分子との間のKB積分および直接分子間相互作用を解析した.その結果,Helix側鎖とTFE分子のCF3基との間の静電相互作用により,Helixへの過剰選択的溶媒和が誘起され,顕著なHelix誘導能を実現することを示した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) モデルタンパク質GCN4-p1におけるCoiled Coil helix二量体による天然構造を分子動力学(MD)法で生成し,Helix重心間距離が 2 nm 程度離れた解離状態と比較することにより,二量体間の疎水性相互作用における直接分子間相互作用による寄与並びに溶媒和自由エネルギーによる寄与(溶媒誘起相互作用)を計算した。その結果,非極性基間の溶媒誘起相互作用はむしろHelix二量体の会合を不安定化しており,天然構造の安定性は,非極性基間の直接相互作用に起因することを明らかにした.また,Packing-desolvationモデルに基づき,タンパク質構造安定性を熱測定データから解析する,大井-大畠-Makhatadze-Privalov理論におけるタンパク質表面積に基づく溶媒和自由エネルギー算定法の問題点を明らかにし,水は非極性基の露出をむしろ好むこと,すなわち,いわゆる疎水基は水を嫌っていないことを,定量的に示した.
(2) TFF 2M による濃度揺らぎが存在しない希薄TFE水溶液中におけるGCN4-p1のHelix二量体並びにランダムコイルにおけるMDシミュレーションを実施し,タンパク質とTFE分子間並びに水分子間のKB積分およびこれらの分子間相互作用を計算した.解析の結果,Helixに対するTFE分子の過剰な選択的溶媒和の主要な原因は,ランダムコイルと比較しHelix形成時の側鎖とTFE分子との強い直接相互作用に起因することを見出した.さらにその微視的要因は,TFE分子のCF3基とHelix側鎖との静電相互作用であり,その結果,ランダムコイルよりHelixに対して顕著な選択的溶媒和が形成され,TFE分子の濃度揺らぎが小さい希薄溶液中においても,Helixの顕著な安定化を導くことを,厳密な熱力学的関係式に基づき明らかにした.
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Strategy for Future Research Activity |
(1) タンパク質の熱力学的安定性は歴史的に,熱測定による熱容量に基づいて議論されており,変性状態と天然状態との熱容量差が正である事を知られている.これはアンフォールディングに伴う非極性基の水への露出に起因すると一般に説明されており,論文投稿時に査読者から,熱容量の議論を行う様,厳しく追及された.そこで本年度は,液体の密度汎関数理論に基づく溶媒和自由エネルギーの温度依存性の計算から熱容量を精度良く算定し,極性基および非極性基の寄与を定量的に明らかにする.それにより,タンパク質熱力学的安定性に関する我々の結論をより確かなものにする.
(2) TFE分子に引き続き,尿素による天然構造および変性構造に対する選択的溶媒和のメカニズムを調べるために,分子動力学シミュレーションを実施する.なぜ尿素は逆にランダムコイルを安定化するのか,TFEの結果と比較しながら解析を進める.
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Causes of Carryover |
昨年度は,現有のワークステーションで計算を進めることができたので,ワークステーションを購入しなかったが,タンパク質の天然構造と変性構造に対する熱容量の解析では,溶媒和自由エネルギーの温度依存性を計算する必要があり,この膨大な計算を円滑に実施するため,今年度はGPU搭載ワークシウテーションを購入する予定である.
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