2022 Fiscal Year Research-status Report
Verification of the hydrophobic interaction hypothesis in protein structural stability and theoretical/experimental study on cosolvent effects
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20K05431
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
墨 智成 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (40345955)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | タンパク質 / 変性剤 / 共溶媒効果 / アルコール / 尿素 / 選択的溶媒和 / コイルドコイルヘリックスGCN4-p1 / 分子動力学シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)アルコールの中でも2,2,2-トリフルオロエタノール(TFE)は顕著なHelix誘導能を示すことが知られており,TFE水溶液の大きな濃度揺らぎがその主要な要因であると考えられてきた.一昨年度,小角X線散乱測定によって決定されたTFE水溶液のKirkwood-Buff(KB)積分に基づく解析から,TFE分子の凝集はヘリックス誘導に必ずしも必要ではなく,HelixとTFEとの直接分子間相互作用に起因する選択的溶媒和が,Helix誘導能に関与している事を示した.この熱力学的解析に基づき,TFEの選択的溶媒和の微視的メカニズムを明らかにすべく,コイルドコイルHelix GCN4-p1をモデルタンパク質として採用し,TFE水溶液中でのMD計算を行った.解析の結果,Helix側鎖とTFE分子のOH基との間の静電相互作用により,TFE分子は逆ミセル配向を取りながら,Helixへのより顕著な溶媒和殻が形成され,Helix誘導能を実現することが明らかとなった.
(2)尿素は古くからタンパク質の変性剤として使われており,天然構造を不規則なコイル構造へと導くことが知られている。その分子メカニズムは尿素がタンパク質に強く相互作用することに起因した直接メカニズムと水の構造を乱し疎水性相互作用を変調すること起因した間接メカニズムが提案せれており,議論が続いている.一般に変性効果が強い高濃度尿素水溶液が使われることが多いが,同様のKB積分に基づく解析により,低濃度域での解析から変性メカニズムを議論できる事が示された.この知見に基づき,同様の尿素2 MのMD計算を行った結果,尿素とタンパク質主鎖との静電相互作用およびロンドン分散力により,尿素はHelixよりCoilに強く溶媒和し,変性状態を安定化する事が明らかとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
TFF および尿素2M による濃度揺らぎが小さい低濃度水溶液中におけるGCN4-p1のHelix並びにラコイルに対するMDシミュレーションを実施し,タンパク質と共溶媒分子間及びタンパク質と水分子間のKB積分並びにこれらの間の分子間相互作用を計算した.解析の結果,Helixに対するTFE分子の過剰な選択的溶媒和の主要な原因は,コイルと比較しHelix形成時の側鎖とTFE分子との強い直接相互作用に起因することを見出した.さらにその微視的要因は,TFE分子のOH基とHelix側鎖との静電相互作用であり,TFE分子はHelixに対して逆ミセル様配向を取りながら,コイルよりHelixに対して顕著な選択的溶媒和殻を形成し,Helixの安定化を導くこと明らかにした. 一方,Coilに対する尿素分子の過剰な選択的溶媒和の主要な要因は,Helixと比較してCoil形成時の尿素と主鎖とのより顕著な静電相互作用およびロンドン分散力に起因する事を示した.また,水分子のCoilに対する選択的排除による寄与は,Coil形成に対してより有利に働く事を見出した.これは如何なる共溶媒の場合でも一般に観測される共通の共溶媒効果であり,「Coil二量体がHelix二量体に比べて排除体積が大きいことに起因する」これまでに見逃されてきた変性効果であると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質の熱力学的安定性は歴史的に,熱測定による熱容量に基づいて議論されており,変性状態と天然状態との熱容量差ΔCpが正である事が良く知られている.これはアンフォールディングに伴う非極性基の水への露出に起因すると一般に説明されている.そこで次年度は,液体の密度汎関数理論に基づく溶媒和自由エネルギーの温度依存性の計算から熱容量を精度良く算定し,極性基および非極性基の寄与を定量的に明らかにすると共に,歴史的に議論されてきた正の熱容量変化の起源を明らかにする.それにより,本研究で明らかにしてきたタンパク質熱力学的安定性に関する我々の結論を,より確かなものにする.
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況で述べた,TFEと尿素によるタンパク質構造安定性に対する相反する共溶媒効果に関する研究成果をまとめた論文を現在執筆中であり,その論文投稿に必要な原稿の英文校正費用およびオープンアクセス料の支払いに使用する予定である.また,今後の研究の推進方策で述べた,タンパク質変性に伴う熱容量変化の研究を現在進めており,前述と同様に,その研究成果を論文として発表するのに必要な経費として,使用する予定である.
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Research Products
(21 results)