2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K05433
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
吉田 健 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (80549171)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野口 直樹 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 助教 (50621760)
村井 啓一郎 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (60335784)
平野 朋広 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 准教授 (80314839)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超臨界水 / 皮膜形成アミン / NMR分光法 / 赤外分光法 / X線光電子分光法 |
Outline of Annual Research Achievements |
皮膜形成アミンは、金属表面に疎水性皮膜を形成することで水や有機酸の金属への接触を絶つというメカニズムに基づく新しいタイプの腐食防止剤であり、近年、高温水配管の安全性と利用効率向上の観点から高い注目を集めている。応用と普及への課題は、皮膜形成アミンからの分解生成物の影響である。アミン類の分解反応に未知の点が多く、特に、有機酸などの腐食性物質が生成、またそれらにより溶液が塩基性から酸性に変化することへの懸念がある。このような背景のもと、2020年度には、水の超臨界温度である400℃において皮膜形成アミンの典型的な構造を有するモデル物質であるアルキルアミンの反応を微視的レベルで解明するために、14Nおよび1H NMR分光法による研究を行った。生成物の経時変化の詳細を分析した結果、反応初期にアルキルアミンの加水分解からアルコールが生成することが明らかとなった。疑一次反応速度定数は水密度に対して顕著に増加することが分かった。これは、C-N結合開裂の遷移状態が双極子(イオン)状態であることを示唆しており、高密度では極性の高い水分子による多体的な溶媒和により、遷移状態がより安定した状態になるためであると考えられる。 高温反応後の水相のpH値を室温で測定した。400℃、0.40g/ccで4、8、16時間の反応後のpH値は、それぞれ11.9、12.0、10.7であった。pHの値は16時間後に若干の下方シフトが見られるものの、十分に塩基性条件を維持していることが分かった。これは、仮に酸性種の生成があったとしても、過剰量に生成するアンモニアによって、酸性種がpHの支配要因とはならないことを意味する。したがって,アルキルアミンの初期分解により生成するアンモニアが、pH 制御による腐食抑制という観点でも有利であるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の第一目標であった皮膜形成アミンの初期分解について、エタノールとアンモニアへの加水分解であるという重要な知見を得ることができた。この成果を初年度に速報誌に発表できたのは順調な進捗であるといえる。さらには、アルキル鎖長と水密度の効果から、アミノ基のプロトン化を経由する反応機構との推論を導くことができた。これは、反応経路と機構の全容の解明に向けた重要な糸口であり、この推論の妥当性の検証がさらに必要な状況である。一方で、金属表面への吸着量の評価や表面の吸着状態の評価は、測定手法の精度と実験の濃度や水熱反応処理時間などのパラメータとの関係性の検討、また再現性等も含め、定量性に関わる要素の検討を進めている段階である。定量NMRによる溶液中の皮膜形成物質の濃度及び分子構造(副反応、金属触媒効果の有無など)の追跡と、赤外分光法及びX線光電子分光法等による金属表面における皮膜形成物質の吸着状態と吸着量の追跡のすり合わせがさらに必要な段階であり、これらは2021年度以降の課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度のNMR分析において課題として残されたもののうち重要なものとしては、反応生成物の同定とNMR信号の帰属が挙げられる。水熱分解反応の解析では、一部の反応生成物は、1H NMRのピークの帰属解明に至っておらず、分子種が特定できていない。1Hと14N NMRに加えて、13C 核の測定及び2次元NMR法を活用することで、生成物の特定と加水分解に続く反応経路の解明を進める方策である。反応機構の解明には、実験から推定される反応機構に沿った量子計算を組み合わせることも有効と考えられる。2020年度は反応条件としては単一の温度として400℃のみの実験を集中的に実施したが、反応速度への温度効果を調べて活性化エネルギーを広い密度範囲で決定することができれば、遷移状態への水和の効果についての推論を裏付けることにつながると期待される。表面分析については、上記の進捗状況の欄に記した精度と再現性の問題を解決したのち、表面上の均一性・不均一性を顕微反射赤外分光法で、また皮膜が薄層である条件については感度に優れる全反射減衰法で、それぞれを調べる方策である。X線光電子分光法による解析に関する既往の研究例では、皮膜の厚さと金属及び皮膜の構成原子の観測強度の議論において、表面上の不均一性が考慮されていないものがみられる。本研究では、上述の赤外分光法と定量NMRを組み合わせて物質収支と皮膜形成のゆらぎを精確に捉えるという重要な点を押さえたうえでX線光電子分光測定を行うことで、皮膜の状態と構造の定量的な解明をさらに推し進める方策である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスによる登校制限で研究協力者の大学院生が学内入構が制限された期間があったことや、幅広い熱力学条件での検討に入る前の実験精度や再現性の確認を慎重に実施したことにより、昨年度内には比較的消耗品費を要する並列的な実験の実施する段階までには到達しなかったため。広い条件での試験を今年度実施するために繰越額を使用する計画である。
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Research Products
(6 results)