2020 Fiscal Year Research-status Report
分子構造とダイナミクスに立脚したサーモサリエント結晶の創製と機能開拓
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20K05442
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
武田 貴志 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80625038)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | サーモサリエント効果 / 分子運動 / 結晶構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は外部熱に対して力学的応答を示す「サーモサリエント結晶」の合理的な分子設計指針の確立と機能開拓を目的としている。研究代表者が独自に見出してきた「運動性を有する折れ曲がり分子の積層」と「固相中での熱運動の誘起」によるサーモサリエント結晶を基軸として、「異方的な運動性を有する分子を適切に集積させる」ことで、サーモサリエント結晶を合理的に創製できることを実験的に示すことを目指している。 その実現のためには、「どの程度の運動性」および「どのような分子形状・異方性」を有する分子がサーモサリエント効果を発現するのか、明らかにする必要がある。その手がかりを得るために、研究代表者が見出しているサーモサリエント結晶を研究出発物質として、類似の構造を有しながらも「分子の運動自由度」や「分子の形」が異なる化合物を系統的に調査することで、上記の問いを実験的に解明することを目指した。その結果、今年度は研究出発物質よりさらに大きく折れ曲がっている構造を有する、ジシアノメチレン基が導入されたキノン化合物がサーモサリエント効果を示すことを見出した。温度可変単結晶X線構造解析の結果、この化合物は加熱により、分子の折れ曲がり角が大きくなるとともに、分子の熱運動の異方性が発現することが確かめられた。さらに、加熱により構造相転移を示すことも明らかとした。これらのことからこの結晶では分子の熱運動が構造相転移を誘起し、それによりサーモサリエント効果を示すということが示唆された。研究出発物質とは異なるメカニズムでサーモサリエント効果が発現されることは興味深い発見と考えている。また、この構造相転移は可逆であり、化合物は熱的に安定であることから、耐久性に優れたサーモサリエント結晶となることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究出発物質と比較して「分子の運動自由度」と「分子形状」が異なる分子でサーモサリエント効果を示す物質を発見することができた。これは「運動性を有する折れ曲がり分子の積層」と「固相中での熱運動の誘起」によるサーモサリエント結晶を基軸として、サーモサリエント結晶を創製するという研究目的に資する重要な成果といえる。これより計画が順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究出発物質及び今年度見出したサーモサリエント結晶と類似の構造を有しながらも「分子の運動自由度」および「分子の形」が異なる化合物ライブラリーを構築し、それらを結晶系統的に調査することで「サーモサリエント結晶」の合理的な分子設計指針の確立を目指していく。折れ曲がった拡張π電子系からなるサーモサリエント結晶に関する研究も推進する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍による学会中止・出張制限により、計画していた成果発表旅費の執行が不可能となった。本年度購入予定としていた物品が、コロナ禍による影響により、調達可能時期が未定となり次年度以降に調達を延期した。このため大幅に次年度使用額が生じた。次年度使用額については本研究に係る合成試薬類・測定備品購入および成果発表経費として使用する計画である。
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Research Products
(4 results)