2021 Fiscal Year Research-status Report
界面張力・流れ分布計測による自己駆動系の運動機構評価
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20K05444
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
野本 知理 千葉大学, 大学院工学研究院, 助教 (00510520)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 界面 / 界面張力 / マランゴニ流 / アクティブマター / 自己駆動系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は界面が関与する自己駆動系で重要となる不均一な界面張力と表面の流れの時間依存性・空間依存性について,界面張力変化源直近から評価可能な測定手法を開発することで,未だ不確定性要素が多い自己駆動系の駆動機構検証を可能とし,自己駆動系設計に対して実験的フィードバックをもたらすことを目的としている。 従来,申請者らは界面張力分布と流れの関係についての知見を得るため,固体・液体の界面活性分子供給源を界面に設置して界面張力や流れの位置依存性測定を行ってきた。界面張力波の光散乱周波数を捉える手法を用いることで,自己駆動に伴う界面張力分布を非接触計測することができ,物体周囲についてもある程度までは測定可能であるが,メニスカスの界面変形を伴う物体直近では測定が困難になっていた。それゆえ,本研究では当初,光反応で界面活性が変化する分子を用いたり,温度勾配を形成することでメニスカスを軽減しつつ界面張力分布を計測する試みを進め,界面張力の分布とマランゴニ効果について議論を行う計画を立てていた。ゆえに光反応による界面張力制御としてアゾベンゼンジカルボン酸を用いたところ,界面張力変化と流れは観察されたが,得られた値は小さく流れも弱いため,系統的な測定には向かなかった。これはアゾベンゼンジカルボン酸の界面張力変化が小さいだけでなく,界面張力勾配形成が界面変形も伴うためと考えられる。 一方,自己駆動系の駆動機構解明の一環として樟脳船2体運動の界面張力分布・界面流れ計測も行った。従来,樟脳船の界面張力分布は時間分解能の制約から飽和樟脳溶液や界面活性剤溶液を用いて特定位置における測定ができたのみであった。今回,時間分解能とS/Nの測定系の改善を行い,従来の5倍程度の時間分解能で測定を行うことができ,樟脳船の前進と後退に伴う樟脳船の運動機構の違いや界面張力効果についてより詳細な情報が明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において,不均一な界面張力分布計測と流速分布の時間依存性・位置依存性についての測定を行っていくため,前年度から4,4’-および3,3’-アゾベンゼンジカルボン酸の光照射に伴う構造変化による吸着状態の変化に伴う界面張力変化の検出,および界面張力変化に起因する流れの検出を試みてきた。アゾベンゼンジカルボン酸のトランス体水溶液に紫外光を照射したり,シス体水溶液に可視光を照射しながら表面張力測定や粒子観察を行ったところ,水面の流れや表面張力の低下が観測された。当初はより表面張力変化や強い流れを作り出してQELS法による界面張力・流れ計測を行うことを試みていたが,今回の測定系の範囲ではQELS法で観測できるほどの流れにはならなかった。これはアゾベンゼンジカルボン酸の界面張力変化が小さいだけでなく,界面張力勾配形成が界面変形も伴うためと考えられる。 一方,自己駆動系の駆動機構解明の一環として樟脳船2体運動の界面張力分布・界面流れ計測も行った。従来,樟脳船の界面張力分布は時間分解能の制約から特定位置における測定ができたのみであったが、本研究において測定系の改良を行った結果,既報の測定では時間分解能1秒程度であった界面張力測定の時間分解能を5~10倍以上高速化することができた。そこで2体の樟脳船の振動運動について界面張力分布・界面流れ計測を試みた。従来は飽和樟脳水溶液や界面活性剤溶液を使用して速度を遅くしなければ樟脳船前後の界面超る力測定はできなかったが,時間分解能の向上により純水を使用して高速化した樟脳船についても界面張力測定することができるようになった。メニスカス変形や測定の抜けはあるものの,従来測定できなかった振動運動中の樟脳船の前方,後方の界面張力分布が明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では自己駆動運動の駆動力となる界面張力分布や界面流れについての議論を行うために,界面自走現象の源となる界面張力低下について,界面変形を低減し,測定系を平坦な界面にすることでQELS法を適用しやすくすることを当初は目指していた。しかし,平坦な界面にならず界面変形を伴った状態でもQELS法の測定・解析が可能ならば界面張力分布や界面流れについての議論は可能である。そこで今後の方策としては,メニスカス等による界面変形が起きた際にQELS法の結果がどの程度変化するか把握し,界面変形の補正方法の開発の可能性について検討を進めていく。このため,レーザー変位計を導入して界面形状を把握しながら界面張力波周波数変化を捉え,自己駆動運動の解析に活かす研究を行う。この研究が進むことで,自己駆動系周囲の変形した界面についてレーザー変位計などを用いて表面形状を把握し,それに伴ってQELS法測定結果を補正できるようにすることを目指す。これらと併せて,温度による表面張力制御や電場による表面張力制御など,他の方法を用いた表面張力制御も試みていく。 さらに,これまでの測定手法改良・解析手法改良を踏まえ,本研究でターゲットとしている界面が関与する自己駆動系周囲の界面張力と表面の流れの時間依存性・空間依存性について,実際の自己駆動系の測定を行うことで駆動機構検証を行っていく。樟脳船や油滴といったアクティブマターは単に自走運動を行うだけでなく単一系・多体系での往復運動など複雑な運動を示す。本研究の中で改良されてきた測定系を用いることで,従来のシミュレーションや静的な界面張力測定ではわからなかった非平衡状態の自己駆動系のメカニズムや相互作用について,新たな知見が得られると考えている。
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Causes of Carryover |
本年度の研究遂行においても大部分で既に調達済みの装置を使用し,新規装置調達についても仕様検討など慎重に行っているため本年度の発注とならなかった。試薬類についても共同研究等による提供があったため次年度使用額が生じた。旅費についても新型コロナウイルス感染症対応で多くの学会にてオンライン開催となったため発生しなかった。次年度は学会参加費,試薬や光学部品,界面形状把握のためのカメラなど研究進展に伴って使用していく予定である。
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