2020 Fiscal Year Research-status Report
集団励起状態実現に向けた自己組織化能を有するπ-σ-π型分子の開発
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20K05449
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Research Institution | Chitose Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
坂井 賢一 公立千歳科学技術大学, 理工学部, 准教授 (50342788)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 集団励起状態 / 蛍光 / 自己組織化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「単一分子の励起状態」とは本質的に異なった「分子会合体における集団励起状態」を実現させるための新規分子系の創出である。集団励起を起源とした新たな電子・光物性の開拓を視野に、物理、化学の両面から分子会合体の研究は注目されているが、対象となる分子の候補はシアニン系色素の他、ごくわずかなものに限られているのが実状である。本研究では、サリチル酸メチル(MS)2分子をアルコキシ鎖で連結した双頭型(π-σ-π型)分子であるMS-diadsを対象にして、その集積性の評価、及び集団励起状態実現へ向けた分子設計指針の確立を目指している。 初年度はアルコキシ鎖の炭素数が1から4までのMS-diadsを合成し、それらの自己組織化能について、NMRやX線解析を用いた会合体構造の検証や、集積化が吸収・蛍光特性へ与える影響について考察を行なった。色素濃度の上昇に伴って観測されるスペクトルの変化量(吸収スペクトルにおける450 nm付近に出現する吸収帯の吸光度変化、及び1H-NMRスペクトルのMS部位のプロトンシグナルのシフト量)を色素濃度に対してプロットした結果から、現在、会合体の形成は2段階で進行しているものと考えている。色素濃度を1 mMから100 mMへ変化させた際には、isodesmicモデルで説明出来たが、100 mMから600 mMへの変化に対しては、シフト量の急速な増加により、isodesmicモデルから逸脱し、集積化が一気に進行していることが示唆された。このような段階的な集積化は、100 mMを境にして蛍光スペクトルの形状や強度も変化することからも支持された。また会合体の構造に関しても単結晶X線構造解析の結果を元にモデル化を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の結果(MS-diadsが濃度上昇に伴って特徴的な吸収・蛍光スペクトルを与えること、またそのような特異なスペクトルの発現はMS-diadsの会合体形成に由来すること)を報告するうえで必要とされるデータを十分揃えることが出来た。そこで現在、ここまでの成果をまとめた論文を執筆中である。また、MS-diadsの自己組織化能の起源を探るために新規色素の合成も進めているが、片側のMSをフェノール環に置き換えた分子では、集積化に伴って溶媒のアルコールをゲル化したり、THF/水の混合溶媒系で相分離を起こしたりする興味深い現象を見出している。以上より、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
サリチル酸メチル(MS)では自己組織化に起因した特徴的な光学特性の発現は確認出来ないのに対し、なぜ、MSをアルコキシ鎖で連結したMS-diadsにおいて、集積性が向上し、興味深い光学特性を示すようになるのかという問いに明快な答えを見つけるためにも、今後はMS-diads誘導体の合成、およびそれらの評価を系統的に進める予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の中、学会がオンライン開催であったため出張費分が未使用となった。
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