2020 Fiscal Year Research-status Report
High-pressure synthesis of high-entropy chalcogenides with pyrite-type structure
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20K05450
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Research Institution | Shibaura Institute of Technology |
Principal Investigator |
山本 文子 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (50398898)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 高圧合成 / 金属カルコゲナイド / 高エントロピー化合物 / パイライト型 / 結晶構造 / 輸送特性 / 磁気特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、精力的に高エントロピー材料の物質開発が進む中、本研究では研究例のほとんどない金属カルコゲナイドに着目した。研究の目的は、「高エントロピーカルコゲナイドを高圧法により新たに合成し、その機能を開拓すること」である。従来、硫化物やセレン化物は石英封入法で合成されることが多かったが、組成ずれ起こす可能性があり、また、非平衡相の高エントロピー物質を高温から急冷することも難しい。その点、高圧法は、融点が比較的低く蒸散しやすい硫黄やセレンを閉鎖的空間で反応させ、かつ急冷することが可能である点で優れている。 研究は計画に従い、キュービックアンビル型高温高圧合成装置により, 金属二硫化物MS2 (Mは、以下の4-6種の金属をサイトに等量含む。Mn,Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Rh,Cd,Pd)、及び金属二セレン化物MSe2 (Mn,Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Rh, Cd, Pd) を合成した。いずれも狙いとする結晶構造はAX2の典型的な構造の一種であるパイライト型である。MS2では、Mが4種類および5種類の金属において、単一相のパイライト型の化合物が得られた。また、MSe2でも、複数の組み合わせの5種の金属において単一相のパイライト型の化合物が得られた。これらは、元来、常圧ではパイライト型を示さない硫化物やセレン化物の金属を含むもので、狙い通り高エントロピー効果により安定化がなされたと考えられる。 個々の試料は、電子顕微鏡による組織観察で粒子の形状や大きさを判定し、また、X線検出器で組成分析を行い、より均一な試料合成へとフィードバックをかけている。同時に、結晶構造解析および電気的および磁気的物性の測定も進めており、これらの新しい高エントロピーカルコゲナイドの特徴が明確になりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、計画に通り、キュービックアンビル型高温高圧合成装置により, 金属二硫化物MS2 (Mは、以下の4-6種の金属をサイトに等量含む。Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru)、及び金属二セレン化物MSe2 (Fe, Co, Ni, Cu, Zn, Ru, Rh, Cd) を合成した。いずれも狙いとする結晶構造はAX2の典型的な構造の一種であるパイライト型である。MS2では、M:Fe, Co, Ni, Cu, Ruにおいて、単一相のパイライト型の化合物が得られた。また、MSe2でも、M:Fe, Co, Ni, Cu, RuまたはPdにおいて単一相のパイライト型の化合物が得られた。これらは、元来、常圧ではパイライト型を示さない硫化物やセレン化物の金属を含むもので、狙い通り高エントロピー効果により安定化がなされたと考えられる。 個々の試料は、電子顕微鏡による組織観察で、不純物の有無、反応の均一性、粒子の形状や大きさを観察し、また、一部は、X線分析検出器で組成分析を行い、より均一な試料を得るためにフィードバックをかけている。さらに、電気的および磁気的物性の測定も進めており、単一金属の二硫化物、二セレン化物では、見いだせない磁性が現れている。 現在、コロナ禍にもかかわらず、研究の滑り出しは概ね順調で、本研究に関わる大学院生も非常に熱心に実験に取り組んでいる。また、実験環境や実験装置にも大きな問題はない。
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Strategy for Future Research Activity |
現状、本課題研究は概ね順調に進んでいるので、当初の計画に従い確実に実施する。2020年度の精力的な合成実験により、どの金属元素を含む時が高エントロピー化合物として安定化されるかがある程度明らかになったので、今後は他の金属の組み合わせへと拡張させつつ、良質な試料を得るための合成条件をさらに最適化させる。こうして得られた化合物には、多結晶および単結晶の精密構造解析を行う予定である。構造解析に関しては、他機関の研究者との共同研究も積極的に行う。また、電気的磁気的物性、特に磁性に関しては、再現性の問題や異方性の問題など明確にすべき問題があるので、様々な条件でより詳細な測定を進め、慎重に解析を行う。 これまでの研究から硫化物とセレン化物の固溶体が可能であること、セレンとテルルの固溶体についても、もし実現したら、さらに新しい組み合わせのこうエントロピー化合物が見つかる可能性があるので、可能な範囲で、同時に研究を進める予定でる。 さらに、本研究では、パイライト型の高エントロピー金属二硫化物及び金属二セレン化物を対象としてきたが、本年度、研究室の別の学生が、行っていた高エントロピー金属一硫化物の合成研究において、大変興味深いが結果が得られたので、ぜひ、本研究と関連づけることで双方の研究を加速させたい。
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Causes of Carryover |
Covid-19の感染防止で、緊急事態宣言が発出されたことで、キャンパスへの入場制限等がかかり、2020年度当初は十分な研究活動ができなかった。また、参加を予定していた国内外の学会も延期やキャンセルとなったことから、物品費、旅費とも当初の予定の使用を大幅に下回る支出となった。本年度は前年度分と合わせた形で、より効率的に予算を使用するため、これらの大半を、場合によっては、別の科研費と合算して、組成分析機の購入に当てたい。これを現状の電子顕微鏡と合わせて使用することで、生成物の組成の決定が合成後すぐに可能となる。今まで外部組織で行っていた分析が、代表者の実験室で行えることになれば、研究速度が加速することが大いに期待される。
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