2020 Fiscal Year Research-status Report
デンドリマー三量体のフォールディングによる精密ナノ構造の創出と機能発現
Project/Area Number |
20K05466
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小嵜 正敏 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (10295678)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | デンドリマー / 金属錯体 / フォールディング / 光異性化 / 共役分子 / ビピリジン / 吸収スペクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
1.金属錯体形成を利用したキラル高次構造をもつデンドリマー三量体の構築: 共役鎖を内包するデンドリマー三量体のフォールディング過程を金属錯体形成によって制御することでキラルなナノ構造を創出することを目的として研究を実施した.分子中央にビピリジンユニット,分岐鎖末端に親水性のトリエチレングリコール基を有する共役鎖内包型デンドリマーを分子設計した.金属錯体の形成反応は極性溶媒中で実施することを想定しているため,極性溶媒に良好な溶解度をもつデンドリマー三量体が必要である.そのためにトリエチレングリコール基をデンドリマーに導入した.分子の合成経路および合成反応条件の検討を繰り返して行った結果,市販品から9段階で目的とするデンドリマーを高収率で合成することに成功した.合成したデンドリマーの構造は核磁気共鳴スペクトル測定と質量分析によって確定した.構築する三量体が有する錯形成能力に対する予備的知見を得るために,合成したデンドリマーを用いてアセトニトリル-トルエン1:1混合溶媒中で金属錯体の形成を検討した.吸収スペクトルで反応を追跡し,トリスビピリジン錯体の形成を確認した.三量体を構成するデンドリマーが高い錯体形成能力をもつことを示す重要な成果を得た. 2.光異性化によるデンドリマーのフォールディングの誘導: 自発的にフォールディングが進行するデンドリマー三量体の架橋部にアゾベンゼンユニットを導入することで光応答性を付与することを目的に研究を実施した.三量体の合成前駆体である共役鎖を内包するデンドリマーおよび架橋部となるアゾベンゼンユニットの合成を完了した.合成したデンドリマーの構造は,核磁気共鳴スペクトル測定と質量分析によって確定した.共役鎖末端にアゾベンゼンユニットを結合しデンドリマー二量体を合成することを検討している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
金属錯体によって分子のフォールディング過程を制御しキラルな高次構造を構築することが可能な共役鎖内包型デンドリマー三量体の分子設計を分子力場計算(Merck Molecular Force Field法)を利用して実施した.設計した三量体の合成前駆体であるデンドリマーの合成を達成した.デンドリマー三量体が目的とするフォールディングを起こすためには,安定な金属錯体を形成することが必要である.デンドリマーはかさ高い分岐鎖をもっているため,ビピリジン部分と分岐鎖の距離が重要となる.目的とする三量体の金属錯体を形成する能力に関して予備的な知見を得るために,合成したデンドリマーと金属イオンの錯体形成反応を予備実験として実施した.アセトニトリル-トルエン1:1混合溶媒中でデンドリマーと二価の鉄イオンを混合し反応を紫外可視吸収スペクトル測定によって追跡した.その結果,トリスビピリジン金属錯体の形成を確認した.この結果は設計したデンドリマー三量体が高い錯体形成能力を有していることを示している.さらに,デンドリマーが反応溶媒に良好な溶解性をもっていることも明らかにした.分子設計に問題が無いことを示す,重要な研究成果を得た. また、光異性化によってデンドリマーのフォールディングを誘導させる研究課題においては,重要な合成前駆体である共役鎖を内包するデンドリマーおよび架橋部となるアゾベンゼンユニットの合成を完了している.現在,共役鎖末端にアゾベンゼンユニットを結合しデンドリマー二量体の合成を検討している.今後、反応条件の検討と生成物の分離条件を探索することで目的とする二量体を合成する.
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Strategy for Future Research Activity |
1.金属イオン添加によるフォールディング:中心にビピリジン部を導入したデンドリマーから三量体を合成する.デンドリマー三量体の溶液に金属イオンを添加してトリスビピリジン金属錯体を生成させることでフォールディングを誘発する.デンドリマーやその結合部位の構造を最適化することで効率的なナノ構造形成を達成する. 2.キラルなナノ構造の創出:トリスビピリジン金属錯体にはΛ型とΔ型のエナンチオマーがあるため,三量体が内包する共役鎖骨格および分岐鎖配置はキラルな構造を有する.デンドリマー三量体にキラルな部位を導入することで,フォールディングにより一方のエナンチオマーを優先的に生成させる.エナンチオマー過剰率はCD スペクトルから評価する.導入するキラルな構造やその位置を最適化することによってエナンチオマー過剰率を向上させる. 3.光異性化によるフォールディング誘発:最初に結合部にアゾベンゼン部を有するデンドリマー二量体を合成する.光照射によってアゾベンゼン部の異性化反応を進行させる.紫外可視吸収スペクトルの測定によって異性化反応を追跡するとともに,デンドリマーのフォールディングに伴って起こる特徴的なスペクトル変化が起きるか確認する.熱力学的に安定なトランスアゾベンゼン構造ではフォールディングが進行しないこと、光異性後のシスアゾベンゼン構造ではフォールディングが進行することを確かめる.必要な場合は三量体架橋部を再設計し,光異性化によってフォールディングが誘発される光応答型三量体を創出する.アゾベンゼン部の光異性化で課題が多い場合は,ジアリルエテンを光異性化部位として検討する.
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Causes of Carryover |
2020年度4月~5月まで新型コロナウイルス感染拡大により研究を十分な体制で進めることができなかった.また,参加予定していた学会が遠隔開催となり,交通費・宿泊費などの支出が不要となった.2021年度実施する研究の消耗品購入に支出することを計画している.
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