2021 Fiscal Year Research-status Report
ヘリセンのらせん構造内部空間に着目した機能性分子の創製
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20K05467
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Research Institution | Showa Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
臼井 一晃 昭和薬科大学, 薬学部, 准教授 (80553304)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヘリセン / ホスフィン配位子 / 円偏光発光 / クマリン / らせん分子 / 励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
らせん構造内部に官能基を有するらせん構造内部置換型ヘリセンは、高いラセミ化障壁を有することが見込まれるため、コンパクトな不斉素子としての応用が期待される。それゆえにその簡便な合成法の開発が希求されていた。本研究は、らせん構造内部置換型ヘリセンの特異な構造と電子的環境を活かした機能性分子を設計・合成し、その有用性を検証する。研究実施計画に示した以下の3項目を有機的に連携させながら段階的に進めていくことで、らせん構造内部置換型ヘリセン類の有用性を明らかにする。 研究項目①:π拡張らせん不斉ホスフィン配位子の合成とその機能解明、項目②:らせん不斉ホスフィン配位子の立体発現機構の解明、項目③:クマリン縮環型ヘリセン誘導体の合成と生細胞イメージングプローブとしての応用研究
本年度は、項目①のπ拡張らせん不斉ホスフィンの円偏光発光(CPL)特性と項目③ のクマリン縮環型ヘリセン誘導体の合成を実施した。項目①に関しては、進捗状況に示す通り、π拡張ジヒドロヘリセン型ホスフィンとホスフィンオキシド体の光学特性について調べた。項目③に関しては、クマリン縮環型ヘリセン(CMH)の発光特性やCPL特性の向上を目指し、新たに分子内に窒素原子を導入したピリドクマリン縮環型ヘリセン(PCMH)誘導体の合成に着手した。PCMH誘導体の合成では、Snieckusらによって開発されたフェナントリジン(含窒素芳香族化合物)の合成で知られるPd触媒ドミノ型反応条件に付すことで、PCMH誘導体の重要な合成中間体と位置付けたジヒドロアザ[5]ヘリセン(diAza5H)とその類縁体の短工程合成を達成した。また、diAza5H誘導体に関しては、進捗状況に示すように興味深い光学特性も見出した。現在、diAza5Hの脱水素芳香族化反応によって得られたアザ[5]ヘリセン(Aza5H)足掛かりとしたPCMHの合成を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
項目①の進捗状況: 実施計画書に示すπ拡張ジヒドロヘリセン型ホスフィンL4dとその酸化体であるホスフィンオキシドPO4dの光学特性やCPLを評価した。各種溶媒中におけるL4d、PO4dの吸収スペクトルを観測したところ、それぞれの吸収極大波長にほとんど相違は見られなった。一方、L4dの蛍光スペクトルでは、蛍光極大波長が高極性溶媒中ほど短波長シフトを示す負のソルバトフルオロクロミズムが観測された。また、L4dとPO4dの間で蛍光量子収率(Φf)の差が観測され、クロロホルムやアセトニトリル中では、15倍以上のΦfの差があることがわかった。両エナンチオマーのCPLスペクトルでは、L4dのアセトニトリル溶液からはCPL特性は観測されなかったのに対し、PO4dからはλCPL 458 nm[円偏光の偏り(g因子)は1.6×10^-3]にCPLが観測された(日本薬学会第142年会で発表)。以上、本研究では、L4dのホスフィノ基の酸化を引き金とするoff/on型CPL素子としての可能性を見出した(論文投稿準備中)。
項目③の進捗状況;分子内に窒素原子を導入したピリドクマリン縮環型ヘリセン(PCMH)誘導体の合成を行った。PCMHの合成は、合成中間体として位置付けたジヒドロアザ[5]ヘリセン(diAza5H)の合成とその類縁体の合成を達成した。diAza5Hは新規化合物であることから無置換のdiAza5Hの光学特性を評価した。その結果、diAza5Hは励起状態で強い塩基性を発現することを明らかにした(基底状態のpKaは9.72、励起状態では14.1)。続いて、DDQやPh3CBF4(トリチリウムテトラフルオロボラート)を用いてdiAza5Hの脱水素芳香族化を検討した結果、反応の進行は認められなかったが、Pd/Cを利用した脱水素化反応条件に付すことでヘリセン型に導くことに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
項目①について: 進捗業況に概説したように、2021年度ではπ拡張ジヒドロヘリセン型ホスフィンL4dとその酸化体であるホスフィンオキシド体PO4dの光学特性やCPLを評価し、アセトニトリル溶液中において、L4dが観測されなかったCPLがPO4dに酸化されることで高いCPL特性を示すことを明らかにした。今後、本現象の溶媒依存性を明らかにするため各種有機溶媒中における蛍光スペクトル、蛍光量子収率、および蛍光寿命も測定する。また、これまでの研究から、本化合物の異方性因子(g値)がTD-DFT計算(汎関数はMN15を使用)によってある程度正確に推定できることが明らかになりつつある。今後、本知見に基づき、らせん構造内部の置換基の構造変化とCPL特性の関係を明らかにする。
項目②について: 2021年度も当初予定の人員確保が難しく実施できない状況であった。2021年度は計画書に示した通り、リン上の置換基が異なるL1d及びL2d、L3dのPd錯体が不斉鈴木宮浦カップリング反応においてエナンチオ相補的な触媒として振る舞う現象を解明するための研究を進める予定である。
項目③について: 進捗業況に概説したように、これまでにPd触媒ドミノ型反応を活用した、PCMHの合成中間体であるジヒドロアザ[5]ヘリセン(diAza5H)の合成とPd/Cを用いた脱水素化芳香族反応によりアザ[5]ヘリセン(Aza5H)の合成に成功した。今後は、2位に置換した水酸基を足掛かりとしてクマリン部の構築を行う。なお、九大先導研の友岡教授らが開発したDYASIN(動的不斉誘起法)を活用することで光学活性PCMHの効率的合成も検討する予定である。合成したPCMHは、細胞染色特異性等の評価をクマリン縮環型ヘリセンCMHと同様に実施する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ渦の影響により参加予定だった学会が中止やオンライン形式になったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額は、消耗品の充当や学会参加費として支出する予定である。
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Research Products
(16 results)