2020 Fiscal Year Research-status Report
生物産出有機物質から水素を引き抜き放出する高活性有機分子触媒の創出
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20K05473
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
岡本 昭子 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30512777)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機分子触媒 / 水素引き抜き-放出 / 酸化還元能 / peri-アロイルナフタレン / ピナコール / 非共平面性 / 高歪み / 空間構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
化石炭素資源に依存しない社会の実現の一方策として,循環資源から水素を「作る・貯める・取り出す」化学変換技術が期待される。本研究では,太陽光など多波長の光照射下で未利用の生物産出有機物質(糖類など)から水素を引き抜き,それを還元に利用できる有機分子触媒の創出を目的としている。その手段として,申請者が見出した,ナフタレン環の1,8-位に二つの芳香族カルボニル基を持つジケトン化合物がカルボニル炭素間に結合を作って高転換率でジオール化合物に還元される反応, 生成した高歪みのジオール化合物が逆に結合開裂してジケトン化合物に酸化される挙動,を利用する。初年度の研究はジケトン化合物およびジオール化合物の三次元構造が分子修飾によりどのような影響を受けるのかを系統的に調べた。この知見は,ジケトン化合物の隣接するカルボニル間での炭素-炭素結合形成-開裂をカルボニル基周辺の立体環境により制御する計画にとって重要である。申請者はこれまでの研究でジケトン化合物のカルボニル基に直接結合しているベンゼン環のp位の置換基を変えると,二つのベンゼン環がなす角(二面角)が20°程度の範囲で変動することを見出しているが,ベンゼン環の他の置換位置やナフタレン環側の修飾に関して十分には解明できていなかった。また,ジオール化合物の結晶構造は数例解析できているが,系統的な分子修飾に基づく特徴の整理は不十分であった。そこで本研究では新たに3種類のジケトン化合物と4種類のジオール化合物について,X線結晶構造解析により分子構造,結晶構造に関する特徴を調べた。その結果,ジケトン化合物のナフタレン環の2,7-位の置換基の変更は分子の対称性を変えること,ジオール化合物は結晶中で複数の異なる配座をとること,が明らかになり,二つのターゲット化合物の柔軟な空間構造と分子修飾の影響を説明することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度の当初の目的は,有機分子触媒が糖から水素を引き抜き,放出する際の反応機構と反応支配要因を明らかにすることであり,そのために申請者が見出した亜鉛を還元剤とするジケトン体の還元挙動の解析とジオール体の水素放出挙動と温度との相関整理を行うという,反応データの収集と解析を繰り返すことを予定していた。反応挙動の解析は反応に関与する要素を想定しながら,地続きの条件での検討を重ねる必要があり,時間的に連続的な実験の実施が十分な精度の知見修得の要になっている。令和2年度はコロナ禍での活動制限により,継続的な実験の実施時間の確保が困難であって,その状況を踏まえて出発系のジケトン化合物,還元生成系のジオール化合物の二つのターゲット化合物の三次元構造の特徴解析に集中して取り組んだ。ここではこれまで申請者が行ってきた分子修飾を拡張し,ジケトン体,ジオール体双方について分子の配座すなわち三次元構造の柔軟性・剛直性と官能基の種類と置換位置という分子構造要素の関係を明らかにするという,相関の解明を進めることができた。これは当初の反応挙動解析から反応支配要因を解明するという直接的なアプローチとは異なるが,基質の分子構造と三次元構造の両面から反応に寄与する要素を説明するという点では当初の目的に合致するものであると考えている。令和2年度に実施したターゲット化合物の分子修飾の拡張と構造的特徴解析は令和3年度の目的と計画に直接関係があるため,年度をまたいで現在継続進行中である。令和2年度に検討予定であった反応条件の変動による反応挙動解析は予備的な検討と解析を行っており,令和3年度以降の詳細な検討により,精度の高い知見獲得が見込まれる。 以上のことから進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は,令和2年度から引き続き行いつつあるジケトン化合物とジオール化合物の分子修飾とその空間構造の特徴整理に注力して研究を進める計画である。現在,ジケトン化合物についてはナフタレン環のカルボニル基の置換位置の1,8-位と隣接する2,7-位の置換基の変更に加え,ベンゼン環上の他の置換位置での修飾を試みており,いくつかの化合物については予備的な合成・解析を行っている。対応するジオール化合物についても順次合成と構造解析の検討を進めている。これらの化合物の分子構造と空間構造の特徴を系統的に整理することを最初の段階の目標としている。その目標達成後には,分子修飾により,空間構造と酸化還元電位の関係を把握するという次の目標に向かって研究を進める。本研究の最終目標である種々の有機物質から水素を引き抜く有機分子触媒の実現には,酸化還元電位が異なる化合物をある程度の電位の幅を持って揃えておく必要があると考えており,ここで得た酸化還元電位測定の結果を分子設計にフィードバックして分子修飾・空間構造解析をさらに進める。空間構造の特徴解析に関する手法は引き続き,X線結晶構造解析を中心に,スペクトル測定等で情報を収集する。適切な単結晶が得られない化合物については,粉末X線結晶解析や理論計算による分子構造最適化を併用する予定である。さらに分子の配座変換に関する多角的な情報を得るべく,NMRに加え,熱分析も適宜行う予定にしている。令和2年度に検討予定であったジケトン化合物の還元-酸化挙動解析は,新型コロナウイルスの感染状況を見極めつつ,断続的な準備を進め,最終年度に検討予定の光照射下での有機物質からの水素引き抜き-放出システムの構築の前段階,もしくは同時並行で実施することが効率的であると考えている。
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Causes of Carryover |
令和2年度の当初の目的は,有機分子触媒が糖から水素を引き抜き,放出する際,どのように反応が進行し,反応支配要因は何かを明らかにすることで,そのために申請者が見出した亜鉛を還元剤とするジケトン体の還元挙動の解析とジオール体の水素放出挙動と温度との相関整理を行う計画になっていた。令和2年度はコロナ禍での活動制限により,継続的な実験の実施時間の確保が困難と判断し,時間的に地続きの検討を重ねることが不可避の反応挙動解析ではなく,二つのターゲット化合物の空間構造の特徴解析に集中して取り組んだ。その結果,令和2年度の予算は当初予定していた実験器具,試薬,溶媒等にかかる支出が大幅に減少し,構造解析のための機器利用費,研究活動の時間を十分確保できる時期を見据えた小型実験装置等の整備,に充てることとなった。一方で,令和2年度の検討結果を基に令和3年度はターゲット化合物の分子修飾の拡張と空間構造解析研究に注力する予定で,次年度使用費は合成検討に必要な器具,試薬,溶媒等の経費,多角的な構造情報を得るための種々の機器利用費に充てる計画である。
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Research Products
(4 results)