2022 Fiscal Year Research-status Report
複数のヘリセンを架橋した剛直な高歪み共役マクロサイクルの構築
Project/Area Number |
20K05479
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
渡邊 総一郎 東邦大学, 理学部, 教授 (10287550)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ヘリセン / 多環芳香族化合物 / マクロサイクル / キラリティー |
Outline of Annual Research Achievements |
アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体の各エナンチオマーを、キラルカラムを用いたHPLCにより単離したのち、X線結晶構造解析が可能な単結晶の作成を試みた。一方のエナンチオマーについて単結晶が得られた。これまで、我々が合成したマルチヘリセンではラセミ体の結晶構造のみが得られており、今回得られた結晶を用いた構造解析の結果とラセミ体の構造を比較することで、結晶状態における構造的特徴とその差異が明らかになると期待される。また、決定された立体構造と、そのエナンチオマーが示すCDスペクトルとの対応づけを行うことで、量子化学計算から予想されるCDスペクトルの妥当性を検証することができる。 新たな試みとして、ジスチリルベンゼンを基本構造とし、これを複数組み合わせることで8の字形分子を合成する試みを行なっている。この化合物は構造的には アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体の類縁体にあたり、これまでの合成検討の中で少量得られている化合物である。この化合物が蛍光性であることが示唆されたので、円偏光発光特性を持つ可能性があると考え、合成経路の確立と物性を明らかにすることを目指している。合成途中の化合物において有機溶媒に対する低い溶解度が問題となったっため、溶解度の向上を目指してアルキル基の導入を試みた。二重結合部分が(Z, Z)体となっている異性体が必要であるが、現時点でシスートランス異性体の混合物として得られるため、別経路での合成を含め、選択的な合成法を確立すべく条件検討を行なっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍において、研究時間や研究人員が十分に確保できなかったことが、現在まで影響を及ぼしている部分がある。特に、光反応の実施にあたっては、反応時間が長く、また安全性の観点から複数人が反応装置を継続的に管理しなければならないため、影響が大きかった。また、光反応は希釈条件で行う必要があり、反応のスケールアップが難しいため、生成物の量の確保が難しい。これは、あらかじめ予想された状況であったが、コロナ禍の影響と複合的に作用した。 縮合多環芳香族化合物では溶解度の問題が常につきまとうが、ここでも目的化合物合成の際や、生成物の構造決定の際に困難さをもたらした。やむなく置換基を導入した化合物を再設計しなければならず、合成経路の再検討も必要となり、時間を要する結果となった。
|
Strategy for Future Research Activity |
アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体については、単一エナンチオマーの結晶構造解析を実行し、ラセミ体との結晶構造の比較を行う。また、CDスペクトルの測定と量子化学計算での予想スペクトルとの比較を行い、計算結果の妥当性を検証する。これらを明らかにした上で、アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体に関する研究を取りまとめ、論文として発表する予定である。 アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体の類縁体の合成研究は、本研究を発端として新たな方向性を検討できる可能性を感じており、溶解度の向上のためのアルキル基導入から検討を進めている。原料の調達と、合成経路の自由度を考慮して、現在は置換基としてメチル基を利用しているが、さらなる溶解度向上が求められる場合は、別の置換基も検討したい。現在用いているメチル基はベンゼン環に直結しているため、官能基変換による誘導体化の可能性も模索する。合成した化合物について、吸収および蛍光スペクトルの測定やCDスペクトルの測定を行い、量子化学計算の結果とも比較検討する。円偏光発光の測定器は保有していないため、共同研究により研究を進めたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
実験時間と人員の確保が十分でなかったために、予定より研究が遅れ、それに対応して予算を十分に活用できなかった。研究機関を1年延長して、次年度使用額を有効利用したい。 次年度使用額は少額であり、目的化合物合成のための原料と溶媒、分離精製のためのクロマト関連物品を購入することに充てたい。
|