2020 Fiscal Year Research-status Report
Development of Flytrap-typed Molecules with Integrated Properties
Project/Area Number |
20K05480
|
Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
幅田 揚一 東邦大学, 理学部, 教授 (40218524)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
池田 茉莉 千葉工業大学, 工学部, 准教授 (40711403)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | スチリルメチル基 / サイクレン / 銀イオン / キラル / ニトリル / CDスペクトル |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度はスチリルメチル基を側鎖として持つ銀食い分子の絶対配置決定試薬としての応用研究を行った. 芳香環などの発色団を持たないキラルニトリルは旋光度が極めて小さく,CDスペクトルを測定しても顕著なコットン効果を示さないため,絶対配置の決定が難しいものが多い.そこでスチリルメチル基(Ph-CH=CH-CH2-)4個導入したテトラアームドサイクレンを合成し,その銀錯体にキラルニトリルを混合すると,キラルニトリルの不斉をスチリルメチル基のコンホメーションに転写・増幅し,CDスペクトルを測定するだけで絶対配置を決定できるシステムを開発した.具体的にはC≡N基が結合している炭素が不斉炭素であるニトリル(A:CH3CH2CH(CH3)C≡N),C≡N基が結合している炭素の隣に不斉があるニトリル(B:CH3CH2CH(CH3)CH2C≡N),C≡N基が結合している炭素の2個隣に不斉があるニトリル(C:(CH3)2C=CHCH2CH2CH(CH3)CH2CH2C≡N)の3種類について検討した.その結果,BとCを銀錯体に添加したときのCDスペクトルのコットン効果と,Aを添加したときのコットン効果が逆になっていた.この結果は,BとCの場合はC≡N基もCahn-Ingold-Prelog則で絶対配置決定のために含めることができるが,Aの場合はC≡N基が錯形成している銀イオンに配位するため,それ以外の3種類の置換基によって決定する必要があるためであると考えられた.キラルニトリルとテトラアームドサイクレン・銀錯体の安定度定数(logK)は1.6程度であることを確認した.この銀錯体にキラルニトリルのR体とS体をR:S=1:0から0:1まで混合したものを加え,CDスペクトルを測定したところ,CDスペクトルのコットン効果と比率が直線関係になったことから混合物中R/Sの比率も決定できることを見出した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
スチリルメチル基を導入したテトラアームドサイクレンの銀錯体によるキラルニトリルの絶対配置決定への応用は「テトラアームドサイクレン(銀食い分子)」に関する研究が基礎研究から応用研究へと方針が転換した成功例である. サイクレンを用いた応用研究例は,カルボキシル基等配位性の側鎖を導入したサイクレン誘導体のガドリニウム錯体による蛍光プローブ依頼の発見であり,サイクレンケミストリーの大きな前進であると考えることができる. フェニルアセチルメチル基(Ph-C≡C-CH2-)を側鎖として導入したサイクレンの単結晶をアセトニトリルに浸漬すると単結晶の状態でアセトニトリルを包接することを見出した.この現象は単結晶間相互変換(Single-crystal-to-single-crystal transformation)であり,有機化合物のみから構成される有機結晶では極めて珍しいことである.
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は以下の3種類のテーマに関して研究を進める 【銀食い分子を用いた新たな超分子の開発】側鎖にピリジン類を導入した銀食い分子の銀錯体を形成する際,側鎖の長さが異なる配位子を合成し,配位子と銀イオンの量比や錯体合成に使用する溶媒を変えることで構造変化がおこるような超分子を開発する. 【大環状化合物の高選択的・高収率合成法の構築】多段階合成が必要でかつ低収率でしか得られない大環状化合物を,1/Ag(I)とジアミン(例えばm- およびp-キシリレンジアミン)によるSchiff塩基形成を用いて1段階で高選択的でかつ高収率で得る合成法を確立する.また反応点が3ヵ所あるトリアミン(例えばメシチレントリアミン)を用いると1段階で二環式大環状化合物が得られるかについても検討する. 【側鎖に三重結合を導入した銀食い分子の化学】昨年度発見したSCSC現象を継続して検討する.また,アセトニトリル中で4/Ag(I)錯体を合成したところアセトニトリルが包接された結晶が得られた.この分子は安価なCu(I)の添加によっても同様の挙動を示すことが期待される.本研究では側鎖に三重結合を導入した分子を合成し新しいハエトリソウ型分子の化学を展開する.共同研究者はすべてのテーマにおいて錯体合成,CSI-MS測定,安定度定数測定を担当する.
|
Causes of Carryover |
コロナ禍によって春学期の授業がリモートになったため,その間研究に専念することができた.時間ができたことにより昨年度予定していなかった研究(SCSC現象の発見)も行うことができたため次年度使用額が生じた.この内容は【現在までの進捗状況】に記載してある.今年度は新たに発見したSCSC現象についてさらなる検討を加える.
|