2021 Fiscal Year Research-status Report
Electron and NMR nano-crystallography for pharmaceutical formulation
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20K05483
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
西山 裕介 国立研究開発法人理化学研究所, 科技ハブ産連本部, ユニットリーダー (20373342)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 固体NMR / 電子回折 / 結晶構造 / 低分子医薬品 / 結晶多形 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、製剤中の低分子医薬品(API: active pharmaceutical ingredient)の結晶構造を一切の前提条件なしに解くことを目的とする。そのために、製剤中に含まれる微小な単結晶から3D電子回折法(microED)を用いて骨格構造を決め、固体NMRを用いて元素の帰属及び水素位置の決定を行う。初年度(2020年度)は、製剤中のAPIからのNMR信号の選択的観測法及び固体NMRを用いた原子核間距離の決定法の開発を行った。2021年度には、窒素原子の99%を占める14Nの同位体の活用、および固体NMR1H/1H相関測定の高精度化・高選択化を行った。1Hおよび14NともにAPIには欠かせない元素である一方、14NはNMR測定が難しく(そのため、ほとんどの窒素NMRでは低感度の15Nを観測する)、1Hは分解能が不足していた。そこで、1H-14Nの長距離相関固体NMR法を開発し信号の帰属の高速化を実現した。本研究はPhysChemChemPhys誌に掲載が決定し、非常に高い評価を得ている。その結果としてHot articleへの採択が決定し、またおもて表紙へのイラストの掲載も決定している。1H DQ/SQ、1H TQ/SQ相関固体NMRを法を開発し1Hの分解能向上を実現した。これらの基礎固体NMR技術を活用し、microED測定と双極子相互作用を用いた固体NMRによる定量距離測定による微小単結晶からの構造解析に成功した。本プロジェクトではmicroED測定だけでは、決めきれない窒素原子の位置(もしくは炭素・窒素の帰属)および、水素原子の位置を正確に決定するうえで固体NMRが重要な役割を果たす。このように二つの異なる手法を有機的に活用し、その基礎技術開発からプロジェクトを遂行することにより、本研究課題の目標達成に向けて着実に進展している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にのっとってNMRを用いた製剤中のAPIの選択的観測法、水素位置の精密測定による塩・共結晶の判別方法などをすでに開発・応用している。本年度はさらに踏み込んだ1H/1H同種核相関測定固体NMR法の開発や、(溶液NMRでのHMBC法にあたる)1H-14Nの長距離相関測定NMR法の開発に成功した。これらの技術はAPIの構造決定に中心的な役割を果たす重要測定であり、特にmicroED法で得られる構造を精密化するうえでかなめとなる情報を与える。これらの新規開発手法とmicroED法と組み合わせることにより効率の良い結晶構造解析として結実した。このように、本研究課題に必要になる要素技術の開発およびその組み合わせの応用をバランスよく着実に進展させており、おおむね順調に進展していると考えて差しさわりはない。今後、等方化学シフトだけでは十分な情報が得られない問題も予想されるので、それに合わせて双極子相互作用の大きさや化学シフト異方性などの情報を得る手法の開拓にも着手する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
低分子医薬品のmicroEDおよび固体NMRによる解析を進めていく中で、1H/1H相関および14Nの活用の重要性がハイライトされるようになってきた。また、化学構造が未知の場合に対応するための施策も必要になると考えられる。これらの現状を鑑みて、相関固体NMR測定法のさらなる開発および、化学式の決定法に2022年度は取り組む。それにより完全に固体の状態での解析のみにてAPIの構造解析を目指す。microEDおよび固体NMR法では、化学式の決定には不十分であるため、当初計画には含まれていなかったが、MASSによる精密分子量測定を用いることを検討している。特に固体粉末から直接解析が可能なDART法を組み合わせることにより、低分子医薬品の構造解析に大きく寄与する手法になりうると期待している。研究範囲が当初の計画より広くなりつつあるが、十分本プロジェクトの中で遂行可能であり、最終目標達成のために必要な経路は見えてきていると考えている。
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Causes of Carryover |
3,854円の次年度使用額が発生したが、それぞれの科目の端数により生じたものであり、次年度の研究計画に影響を及ぼすものではない。
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