2020 Fiscal Year Research-status Report
VQMのヒドロアリール化を鍵反応とするキラルなヘリセンの触媒的不斉合成
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20K05514
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
入江 亮 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (70243889)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ヘリセン / 螺旋不斉 / 不斉合成 / ヒドロアリール化 / 環化芳香化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,最近我々が開発に成功したアルキン-インドール系の分子内不斉ヒドロアリール化(以下AHAと略す)に基づく環化芳香化を鍵反応として,螺旋キラリティを有するヘテロヘリセン類の効率的な触媒的不斉合成法の開発を目的とする.そのために,AHAによって得られるキラルなカルバゾール(以下CBZと略す)含有ビアリール誘導体を不斉合成素子として利用し,その軸不斉を螺旋不斉に変換することでキラルなCBZヘリセンを光学活性体として得る合成戦略を立てた. これまでに,CBZビアリールを4段階でアルキン-CBZ系へと変換するとともに,それに対してシンコニジンをキラル塩基触媒として作用させることでAHAが円滑に進行し,キラルな芳香族化合物が高い光学純度で得られることを見いだしている.しかし,生成物の正確な分子構造は不明であった. そこで今回,単結晶X線構造解析によってその芳香族化合物の分子構造を決定し,それによってアルキン-CBZ系のAHAの反応機構を明らかにすることを目指した.まず,光学活性な芳香族化合物および別途調製したそのラセミ体について,様々な条件下で再結晶を検討した.しかしながら,いずれからもX線構造解析に適した単結晶は得られなかった.これに対して,ラセミ体のp-ニトロ安息香酸エステル誘導体の再結晶を種々検討したところ良好な単結晶を得ることに成功し,そのX線構造解析により,本キラル芳香族化合物が推定していた通りCBZヘリセンであり,螺旋不斉と軸不斉をあわせもつ特異な分子構造を有することを明らかにした.また,この結果から,アルキン-CBZ系のAHAの反応機構を推定することができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目論んでいた各種のヘテロ環を含む様々なヘテロヘリセン骨格を創出できなかったことは,反省材料である.しかし,その一方で,アルキン-CBZ系のAHAで得られたCBZヘリセンの螺旋不斉と軸不斉を合わせもつ特異な分子構造をはっきりと決定できたことは,本研究の新たな展開に資するプラス材料である.すなわち,本研究成果により,得られたヘテロヘリセン骨格に対して適切に官能基を導入することで,新奇なキラル配位子や有機触媒の創製に関する着想を得た.以上のことを総合的に判断して,研究の進捗状況を評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,光学活性なCBZヘリセンを中心に合成および応用研究を進める.そのためにまず,AHAによって得られたCBZヘリセンの絶対配置の決定,DFT計算や速度論解析による反応経路の解明を進める.それによって,本研究の鍵反応であるAHAによるヘテロヘリセン生成反応の反応機構や不斉誘起機構を明らかにするとともに,それに基づく反応条件の改良等により光学活性なCBZヘリセンのグラム量合成法を確立する.さらに,CBZヘリセンの位置選択的な置換反応や官能基変換反応を検討し,螺旋不斉と軸不斉を合わせもつ新奇なキラル配位子および有機触媒の創製を目指す.
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Causes of Carryover |
2018年の年末に起こした火災によって,主たる実験室を焼失した.その復旧工事が当初の予定から大きく遅延し,2020年度末にようやく完了したところである.このため,2020年度中に主たる実験室を利用することができず,また,コロナ禍における活動制限も重なり,研究費の支出は大幅に減少した.一方, 2020年度の途中から,復旧工事の年度末完了を見越し,既存の試薬や装置で行える原料合成や光学分割,分子構造解析,キラル分析などに注力することで研究コストを意図的に抑えつつ,次年度に行う研究の準備を入念に行った. 2021年度は,新しい実験室で合成研究のペースを格段に上げるとともに,新規反応の開発やキラル化合物の創製や応用にも積極的に取り組む予定である.そのために,前年度繰越金を本年度交付金に合算し,必要な試薬や実験器具などの消耗品の購入に宛てる計画である.
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Research Products
(1 results)