2022 Fiscal Year Research-status Report
14族元素を用いた化学種の制御による不斉合成法の開発
Project/Area Number |
20K05515
|
Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
坂口 和彦 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80264795)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | アレニルシラン / 分子内環化 / 脱芳香族化 / スピロジエノン / 4員環 / フェノール / 不斉転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
ケイ素をはじめとする14族元素の特性を利用した新奇な合成反応の開発を目的としている。令和4年度は、アレニルシランを利用した炭素環形成法の開発に取り組んだ。いずれも置換アレニルシランの軸不斉を利用した不斉合成法の開拓であり、アレニルシランをキラルプロパルギルアニオン等価体として活用するものである。 一つ目は、昨年度見出した「超原子価ヨウ素を用いたアレニルシランが連結したフェノール類の脱芳香族化を伴う酸化的分子内環化」である。本法により生物活性物質にしばしば見られる骨格成分であるキラルなシリルエチニル置換スピロシクロヘキサジエノンの合成が可能となる。今年度は、本反応の詳細を調査した。その結果、シリル基が立体的にかさ高いほど不斉転写率が高くなることが分かった (最大88% es) 。アルキル基やハロゲン原子が置換したフェノールおよびナフトール誘導体を基質に用いても対応する生成物が得られることが分かった。また、生成するスピロジエノンはルイス酸存在下で連続カチオン転位が進行し三環式化合物が得られることを見出した。 二つ目は、「アレニルシランが連結したジエノンの分子内環化」である。昨年度、アレニルシランがメチレン鎖を介して4位に置換した2,5-シクロヘキサジエノンはルイス酸存在下で分子内環化により三環式化合物を立体選択的に与えることを見出し(不斉転写率99% es)、NMRスペクトル解析より6,5,5員環の縮環構造であると予想した。今年度は本反応の精査に取り組んだ結果、基質一般性の調査において、生成物のひとつが結晶で得られたのでX線結晶構造解析を行ったところ、当初の構造が改定され、生成物は6,5,4員環の縮環構造であることが判明した。熱的な反応による4員環形成は極めて希な例であり、ケイ素により安定化されたカチオンを経る新奇なモードによる連続環化であることが分かった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一つ目の研究テーマ「超原子価ヨウ素を用いたアレニルシランが連結したフェノール類の脱芳香族化を伴う酸化的分子内環化」については、計画した検討を終えた。出発原料であるアレニルシランの不斉(99% ee)は、生成物である置換スピロシクロヘキサジエノン(88% ee)に転写された。現在、論文投稿中である。 二つ目の研究テーマ「アレニルシランが連結したジエノンの分子内環化」であるが、本研究の目的は、キラルなアレニルシランによりプロキラルな2,5-シクロヘキサジエノンの2つのエノン部位をジアステレオ選択的に識別する方法論の開拓である。現在のところ、酸によって促進される新奇な環化モードでの6,5,4員環化合物の合成に成功し、アレニルシランの不斉(94% ee)は環化生成物(93% ee)にほぼ完全に転写されることを確かめた。プロキラルなジエノン部位の一方のみを選択的に化学変換できたことになる。残る課題は、本法の基質一般性の精査である。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究を推進中の「アレニルシランが連結したジエノンの分子内環化」の残る課題を精査する計画である。現在までに、キラルなアレニルシランにより2つのエノン部位を識別することで6,5,4員環が縮環した化合物を立体選択的に合成できた(前述)。今後、酸の種類およびアレニルシランとフェノール部位を繋ぐメチレン鎖数の異なる基質での環化モードを調べると共に、残ったもう一方のエノン部位の化学変換により光学活性な多環式化合物へと導く。これにより、新奇な不斉多環式骨格構築の方法論を確立する。以上を明らかにした後、論文を投稿する。
|
Causes of Carryover |
本課題研究を担当する学生(1名、研究協力者)の就職活動が長期(8ヶ月)におよんだこと、また、学生(2名、研究協力者)の複数回の自宅待機(新型コロナウィルス感染症の濃厚接触者に該当)により研究活動が制限されたため、試薬、溶媒、実験用具等に係る費用が当初の予定より少なくなった。また、学会(日本化学会第103春季年会)参加費用は他の財源から充当した。 本課題研究の結果公表にはさらなる実験の実施が必要である。以上の理由により、補助事業期間延長申請を行い当該年度の直接経費の一部を基金として次年度に繰り越した。繰り越し分は、合成実験に必要な試薬、溶媒、実験用具および機器分析に要する費用に充当する予定である。
|