2020 Fiscal Year Research-status Report
イオンペア形成に立脚したイリジウム増感剤の高機能化
Project/Area Number |
20K05525
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
滝沢 進也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40571055)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イリジウム錯体 / 増感剤 / イオンペア / エネルギー移動 / りん光 / 静電相互作用 / 溶媒効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
イリジウム(Ir)錯体は、様々な光反応の増感剤として機能することが知られている。しかし、可視光捕集能に優れるが安定性に乏しい錯体や、可視光捕集能には乏しいが比較的安定な錯体が混在する。さらに水への溶解度が低く、応用展開に課題を残している。本研究は、水中で形成する人工脂質二分子膜にアニオン性とカチオン性Ir錯体のイオンペアを導入し、分子間エネルギー/電子移動によってそれぞれの欠点を補わせることで、Ir増感剤の高機能化につなげることを目的としている。 令和2年度は、反応を誘起するために必要な高効率三重項エネルギー/電子移動を分子間で起こせるようなイオンペアの探索から開始した。戦略としてまず、クマリン6を主配位子、オロテートを補助配位子とするIr錯体をアニオン部位として選定した。この錯体は研究代表者が以前開発したものであり、非常に優れた可視光吸収能を有するが、光増感剤としての安定性には問題が残っていた(Dalton Trans., 2018, 47, 11041)。そこで、光増感剤としての安定性に優れる一方で可視光吸収能には乏しい代表的なカチオン性Ir錯体を1つ選び、それと組み合わせた新規イオンペアを合成した。なお、アニオン性錯体の三重項励起エネルギーが、カチオン性錯体のそれよりも高くなるような組み合わせとすることが重要であり、可視光を捕集したアニオン性錯体が分解する前にカチオン性錯体に励起エネルギーを渡せるかどうかが分子設計のポイントとなる。NMR測定によって目的のイオンペアが得られていることを確認し、発光スペクトル、発光量子収率、発光寿命などの光物性を測定した。その結果、極性溶媒であるアセトニトリル中では溶媒和による解離で光励起状態における相互作用が起こりにくいが、クロロホルム中ではそれらが静電相互作用で近接し、期待するエネルギー移動または電子移動が起こることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、複数の組み合わせをもつ5種類程度のイオンペアを合成し、試行錯誤の末に有望なものを選び出す予定だったが、おおむね期待する挙動を示すイオンペアを1つ目の合成で見出した。合成や物性評価に関しても、計画していた方法を大きく改良することなく進めることができた。コロナ禍で研究の本格的開始が遅れたにも関わらず、進捗状況は良好だと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度に有望なイオンペアを1つ見出したが、最終的な研究目標を達成するための候補は複数準備しておくのが得策である。そこで、可視光吸収能に優れるアニオン部位は固定し、さらに低い三重項エネルギーを有するカチオン性アクセプターとの組み合わせを検討する。その場合、アニオン部位からカチオン部位へのエネルギー移動において、さらなる高効率化が期待できる。既に新しいカチオン性Ir錯体の候補は絞られており、速やかに合成を開始できる状況にある。また、イオンペアのDPPCベシクルへの取り込み実験に着手し、期待する光化学的挙動が脂質二分子膜中でも起こるかどうかを検証していく。
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Causes of Carryover |
【理由】次の理由で令和2年度助成金に余剰金が生じた。(1)緊急事態宣言による研究開始の遅延。(2) 新型コロナウイルス拡大の影響で学会旅費の支出がなかったこと。 【使用計画】当初予定の研究計画と並行して別の新規イオンペア合成を継続する。余剰金はそのための試薬や有機溶媒の購入費に充てたい。次年度からベシクル膜への取り込み実験を開始するため、令和3年度助成金は膜分子やカラム部品などベシクル調製に必要な消耗品購入に使用する。イオンペアが膜に取り込まれにくい場合は、長鎖アルキル基を置換するなど分子設計を見直す可能性もあるため、そのための経費も確保しておく必要がある。そして2年目も、得られた成果を国内外に積極的に発信していく計画である。そのための学会参加登録費や投稿論文の英文校閲料にも有効に使用させていただきたい。
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