2021 Fiscal Year Research-status Report
イオンペア形成に立脚したイリジウム増感剤の高機能化
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20K05525
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
滝沢 進也 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (40571055)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イリジウム錯体 / 増感剤 / イオンペア / エネルギー移動 / りん光 / 静電相互作用 / 溶媒効果 / ベシクル |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度の実績として、反応を誘起するために必要な三重項エネルギー移動を分子間で起こせるようなイオンペアを見出している。具体的には、クマリン色素を主配位子とする可視光吸収能に優れたアニオン性Ir錯体と、1-フェニルイソキノリンを主配位子とするカチオン性Ir錯体から成るイオンペアである。令和3年度は、重クロロホルム中におけるROESYによるNMR解析によって、アニオン性Ir錯体とカチオン性Ir錯体が単に会合しているだけでなく、それらの配向に関する詳細な情報を得ることができた。また、この励起エネルギー移動系の速度論的取り扱いに基づいて励起エネルギー移動効率の算出も試みた。その結果、93%という高い効率が得られた。さらに、そのイオンペアを両親媒性分子DPPCから構成される人工脂質二分子膜(ベシクル)に取り込ませたところ、クロロホルム中と類似した発光特性を示した。すなわち、膜表面でも静電相互作用による会合状態を保っており、可視光吸収アニオン性Ir錯体からカチオン性Ir錯体への励起エネルギー移動、すなわち期待するイオンペア間励起エネルギー移動が起こることを実証した。 この結果を踏まえて、電子供与体と水溶性分子触媒をベシクル外水相に添加して可視光照射を行った。しかしながら発生した水素はわずかであり、イオンペアを光増感剤として効果的に機能させる段階には至っていない。一方で、光照射に伴うアニオン性Ir錯体の分解を抑制できることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
イオンペアが形成していることを実証できただけでなく、構成するIr錯体の配向に関する情報も得られたことは今後の分子設計指針に有益である。また、(1)イオンペアが実際にベシクル膜に取り込まれること、(2)それが膜表面でも会合状態を保ったままイオンペア間励起エネルギー移動を起こすことの2点を検証することは本研究の重要課題であった。それを当初の予定通り令和3年度に達成できたため、進捗状況は良好だと自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のとおり概ね順調に研究は進展しているが、令和3年度はイオンペアを光増感剤として効果的に機能させる段階には至らなかった。そこで最終年度は、消光実験などを駆使してその原因の解明に取り組む。その研究と同時に、可視光吸収能に優れるアニオン部位は固定して、それを別のカチオン性アクセプターと組み合わせた複数のイオンペアを新たに合成する。その中から光増感剤として機能するイオンペアを見つけ出して、優れた可視光吸収能と耐久性を同時に実現するIr増感剤の開発へ繋げる。
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Causes of Carryover |
【理由】新型コロナウイルスの拡大が収束して国際会議や国内学会へ対面参加できるものと期待していたが、昨年度に引き続きオンライン開催になった。そのため、計上していた学会旅費の支出が全く無かった。 【使用計画】最終年度を迎えるが、ここからいくつかの新規イオンペアの合成と物性評価に取り組むため、それら実験のためのガラス器具、試薬、有機溶媒の購入費に充てたい。また、昨年度と同様にベシクル膜への取り込み実験も継続するとともに、光水素発生実験も積極的に行っていく。令和4年度助成金は、上記に加えてベシクル調製に必要な消耗品購入と、GC用アルゴンガスボンベとキセノンランプ交換費用に使用する。また、得られた成果を国内外に積極的に発信していく。そのための学会旅費や投稿論文の英文校閲料にも有効に使用させていただきたい。
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Research Products
(3 results)