2020 Fiscal Year Research-status Report
混合DFT法を越えた高精度計算によるMn錯体としてのCaMn4O5の電子状態解析
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20K05528
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
川上 貴資 大阪大学, 理学研究科, 助教 (30321748)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光合成PSII / OEC錯体 / Kokサイクル / 分子軌道法 / 強相関電子系 / LPNO-CC手法 |
Outline of Annual Research Achievements |
光合成システム(PSII)における太陽光を用いる水分解反応は、Mn錯体と高度にカップリングしており、それを触媒するのが「CaMn4O5クラスター」である。これは強相関電子系に属しており、その電子物性・機能発現・反応性の解析には高精度量子化学計算が必須である。しかし、分子軌道法での高精度計算の王道と言われるCC法やMR-CI法は、その適用範囲が比較的少数原子系に限定されており、この巨大分子系に適用することは、計算機資源や計算時間などの制約から極めて困難である。その理由で、電子相関を交換相関汎関数に繰り込んだDFT法、特にHybrid-DFT法が、現在までに数多く行なわれた。しかし、手法内パラメータを順次変更すると、中間体の相対安定性が大幅に変動するため、水分解反応機構の解明には予見性を備えたアプローチが必須であり、その限界をこの研究を遂行することで突破する。
太陽光を利用する水分解反応を触媒するCaMn4O4XYZWクラスターの分子構造は、実験により解明されており、ここでのX, Y, Z, Wはクラスターに配位している水(H2O)あるいはその酸化誘導体(OH-, O2-)などである。しかし、実験では水素原子の位置は見えないので酸素原子の位置にH2O, OH-, O2-のいずれの配位子が存在するかは実験的には確定していない。従って、理論計算ではX,Y,Z,Wの位置にH2O, OH-, O2-のいずれかを仮定してUB3LYP法による構造最適化を行い、得られた構造で高精度計算を実行することで、詳細な物性データを得る。本年度では、特にKokサイクル(S0, S1, S2, S3, S4)のスタートであるS1状態(暗所で最安定)の前後の、S0とS2状態に関して解析を行った。高精度計算には、近年の発展が著しいLPNO-CC法を実行した。これは、参照軌道として最適なUB3LYP分子軌道から局在軌道対軌道解析を行うことで情報の縮約化を行い、高精度計算CC法に導入する手法である。その結果は、論文誌に執筆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
CaMn4O5クラスターのUB3LYP法による構造最適化の結果から、(実験測定で観測できない)水素原子の位置の確定は容易ではないことが判明した。つまり、L-open, R-open(およびその派生)という複数の錯体形状がそれぞれ安定であり、それぞれがCaMn4O5クラスターにとって、触媒機能を発現するために有意義であることが判明した。さらに、Kokサイクルが進むにつれてステップ毎に変化する電子酸化の影響も大きく受けて、それぞれ複雑に相関していることも判明した。
続いて、見出した錯体の構造間での相対エネルギーを定量的評価するために、高精度量子化学計算を行った。特に(1)まず蛋白場の効果を無視した計算(2)蛋白場を連続体モデルで考慮した計算、を実行した。具体的には一連のLPNO-CC計算を実行して、最終的にはDLPNO-CCSD(T)計算が最も合理的であることを結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究を継続的発展することを基本方針として、次年度以降も強相関電子系であるCaMn4O5クラスターの解析に関して、高精度計算を駆使して遂行する。
特に、Kokサイクルは、S1状態(暗所で安定)の解析が実験的にも最も進んでいるが、光合成での水分解反応の触媒機構を理解するには、S1→S2→S3→(S4)→S0の各状態での詳細な解析が不可欠である。初年度はS1状態の前後のS0とS2状態に関して、学術論文にまとめた。そこで、他の状態に関しても同様な解析を適用する。特に、S4状態は実験で観測することが極めて困難であるので、分子軌道法の真価が期待される。
また、初年度で成功を修めたDLPNO-CCSD(T)法であるが、触媒機構をより深く理解するためには、計算精度を高める必要がある。そこで、結果の定量性を高めるために(3)拡大モデルで構造最適化をやり直した計算を実行する。初年度は、(1)蛋白場の効果を無視した計算(2)蛋白場を連続体モデルで考慮した計算、を実行したのであるが、触媒反応の活性中心である機能性錯体に対して、周りの蛋白場が影響していることは周知の事実であるため、その議論も深める。しかし、このアプローチは計算の莫大な増加を引き起こすため、計算資源の増強などを通じて遂行する。
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Causes of Carryover |
本研究の申請当時よりも購入すべき計算機の性能が向上したため、初年度の執行金額を抑制することができた。その金額は次年度で購入計画である装置のグレードを向上させることに活用できる。その結果、当初計画よりも大規模な分子系を解析することが可能となる。
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Research Products
(19 results)