2020 Fiscal Year Research-status Report
所望のヒドリド中間錯体構築を突破口とした水素化反応の環境負荷低減化
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20K05536
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
大山 大 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (20292451)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 金属錯体化学 / 合成化学 / 再生可能エネルギー / 水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
移動水素化反応を環境適合性の高い持続循環型へと転換するため,環境負荷の低い水素ドナーを用いた高性能ヒドリド供与化合物を創成することを目的とし,今年度は主として遷移金属ルテニウム上に構築される金属ヒドリド化合物に焦点をしぼり,以下の研究を推進した。 これまでの研究で明らかにした水素ドナー(エタノール)について,ヒドリド生成条件の検討を行った。その結果,加熱条件下でのみ反応が進行すること,エタノールの脱プロトン化によるエトキシイオンの生成が反応のトリガーになっていることを新たに見出した。また,電子状態の異なる類似錯体では加熱下でもヒドリドの形成は見られなかったことから,金属ヒドリドの生成には当該金属錯体の電子状態,とりわけ配位カルボニル上の親電子性が重要な鍵を握っていると解釈できる。 次に,エタノール以外の水素ドナーを探索するため,塩基性水溶液中でヒドリド生成反応を試みた。その結果,エタノール中での反応と同様に金属ヒドリド化合物が生成することを確認した。これにより,水が水素ドナーとして機能することが新たに分かった。さらに,反応中間体の単離・同定実験に基づき反応プロセスを検討したところ,反応系中の水酸化物イオンによる配位カルボニルへの求核攻撃がトリガーとなり,それに続いて熱的に不安定な中間体(ヒドロキシカルボニル配位子)のベータ水素脱離反応を経由して,金属ヒドリドが生成することを明らかにした。以上の実験から,求核剤の塩基性強度もヒドリドの形成に深く関与しており,溶媒と錯体間の酸塩基反応がヒドリド生成反応を駆動していることが強く示唆される結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では,ヒドリド形成の速度論的な検討を行うこととしていたが,速度論的な考察には至らなかった。一方,ヒドリド生成プロセスならびに他の水素ドナーを見出した点においては当初の計画以上の進展がみられた。以上より,現時点で本研究はおおむね順調に進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
金属ヒドリド錯体の生成機構を解明するため,同位体標識された水素ドナー(重エタノールまたは重水/重水酸化ナトリウム)を用いてヒドリド生成反応を行い,NMR等の分光学的手法により反応中間体および生成物を可能な限り同定する。さらに,様々な条件下において速度論的実験を行い,反応の律速段階や熱力学的パラメータを決定して生成機構を明らかにする。 今年度新たに見出した水溶液を用いたヒドリド生成反応は,工業的に重要な水性ガスシフト反応へ展開できる可能性があることから,今後は水素ガスの生成についても分析を進める必要があると考えている。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響で,当初参加を予定していたすべての学会が中止またはオンライン開催に変更されたため,次年度使用額が生じた。生じた次年度使用額は,主に物品費(消耗品費)に充当することにより,当該研究の推進を図ることとする。
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Research Products
(11 results)