2022 Fiscal Year Research-status Report
所望のヒドリド中間錯体構築を突破口とした水素化反応の環境負荷低減化
Project/Area Number |
20K05536
|
Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
大山 大 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (20292451)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 金属錯体化学 / 合成化学 / 再生可能エネルギー / 水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
移動水素化反応を環境適合性の高い持続循環型へと転換するため,環境負荷の低い水素ドナーを用いた高性能ヒドリド供与化合物を創成することを目的とし,中心金属ルテニウムにヒドリドが直接結合した金属ヒドリド化合物に関する研究を継続するとともに,今年度はルテニウム錯体に含まれる有機配位子上に構築される有機ヒドリドに関する研究を中心に実施した。 これまでの研究で,我々が合成したルテニウム錯体と強塩基(水酸化ナトリウム)水溶液を反応させると,対応する金属ヒドリド錯体が形成することを明らかにした。一方,弱塩基であるアルコキシドイオンと反応させると,配位カルボニルと選択的に反応してアルコキシ・カルボニル錯体が生成することを見出した。今年度は,アルコキシ・カルボニル中間体を出発物質として,さらに塩基と反応させることにより,有機ヒドリド形成反応プロセスの解明を試みた。 弱塩基としてナトリウムメトキシドおよびエトキシドを用いたところ,いずれの試薬を用いた場合においても最終的に有機ヒドリド化合物に変換された。この反応を詳細に観察したところ,錯体上で分子内ヒドリド移動が起こっていることが確認された。すなわち,最初に速度論的に有利な配位ピリジン窒素のパラ位が水素化され,徐々に熱力学的に安定なオルト位へ完全に異性化することを,温度可変の核磁気共鳴分光測定により追跡することに成功した。さらにヒドリド源を特定するため,同位体標識された溶媒(重メタノールまたは重エタノール)を用いて実験したところ,生成物の質量分析結果から通常の質量/電荷比と一致したことから,溶媒であるアルコールはヒドリド源でないことが確認された。以上の結果より,この有機ヒドリド形成反応において,アルコキシド化合物は求核試薬と還元試薬の両方として機能している可能性が極めて高いという結論に達した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画では,水/一酸化炭素から有機ヒドリド形成についての機構的な検討を行うこととしていたが,弱塩基との反応で有機ヒドリド形成が起こることが研究を進めていく中で新たに分かった。そのため,当初予定していた水/一酸化炭素からの有機ヒドリド生成機構は未検討に終わった。一方,有機ヒドリド形成において分子内でヒドリド移動が起こっていることはまったく予想していなかった。既報の文献において有機化合物中で分子内ヒドリド移動が起こることは報告されていたが,金属錯体上でヒドリド移動を実験的に明らかにした例は非常に稀であることから,この点については当初の想定を超えた研究成果である。しかしながら,研究全体の進捗は当初の計画に比較してやや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究対象のルテニウム錯体系は,強塩基との反応により金属ヒドリドが,弱塩基との反応により有機ヒドリドが選択的に形成する。このような塩基の性質に依存したヒドリド種を制御する研究は知られていないため,速やかに成果をまとめて論文として公表したいと考えている。また,類似の有機配位子を導入した錯体系では異なる反応性を示すことが予備的な実験により示唆されており,今後は錯体の種類を増やしてヒドリド形成反応を検討し,得られた成果を基盤として移動水素化反応における分子触媒としての性能評価に展開する予定である。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で,参加を予定していた国際学会がオンライン開催となり,当初計画通りの執行ができなかった。また,新型コロナウイルスの影響で研究に使用していた装置類の修理が部品の供給停止により遅延したこと,試薬類の生産及び海外からの輸入遅延など,複合的な要因により研究遂行に想定以上に時間を要した。次年度使用計画としては,未納品の試薬購入や日本で開催される国際学会への参加登録費および旅費へ充当する予定である。
|