2020 Fiscal Year Research-status Report
トリペプチド環状錯体による柔軟な巨大空間の創出とその新奇特性開拓
Project/Area Number |
20K05539
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
三宅 亮介 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (30509542)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 人工タンパク質 / 巨大構造形成制御 / 柔軟な骨格 / トリペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、独自に開拓したトリペプチド巨大環状錯体をベースに生体に匹敵する複合機能の設計を行うことを念頭に、その基礎的挙動、設計指針を明らかにすることである。本課題では、さらに、柔軟な骨格だからこそ示す新奇特性の開拓も目指している。この目的の達成には、まず、1)トリペプチド錯体の巨大構造の観測手法の確立、2)巨大構造の設計指針の獲得が必要不可欠である。 我々が独自に開発したトリペプチド配位子は、錯体形成条件により、3種類の異なる巨大環状錯体を形成する。2020年度は、これらの巨大錯体について、その作り分け条件を明らかにすべく、溶液中での挙動の観測手法について検討を行なった。小角X線散乱(SAXS)の測定から、一度形成した巨大錯体は、本来形成が不可能な希薄条件下でも、その構造を数日維持し続けることがわかっていた。また、SAXSの測定から巨大錯体の熱安定性等を評価できることを明らかにした。 これらの結果は、日本化学会の春季年会など口頭発表を行った。 また、空間が示す新奇特性開拓に関連して、生体の活性中心に匹敵するような新たな金属活性中心の創出も検討した。まずは、トリペプチドを用いた異種金属イオン配列制御について検討し、選択的な環状ヘテロ金属イオン配列制御ができることを明らかにした。選択的にCu(II), Ni(II)イオンを配列できるだけでなく、両金属イオン間には、アミド基を介して反強磁性相互作用が効率的に働いていた(Angew. Chem. Int. Ed.に報告)。本手法は、巨大環状錯体の活性部位のデザインに有用であり、巨大空間の機能開拓に向けて重要な進捗である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた通り、小角X線散乱(SAXS)を用いた巨大環状錯体での溶液中での挙動の観測手法がおおよそ確立でき、細かな条件検討も行えるようになっている。コロナ禍で出張を伴う共同研究ができなかったり、SAXSの測定を行う施設が休止するなどの理由で、必要な測定が計画通り進められなかった点はあったが、別の方法で研究の進展を目指すなど、工夫をしつつ研究を進めた。SAXSや結晶化条件などの検討から、巨大環状錯体の形成過程についても明らかにしつつあり、巨大空間設計の指針の獲得に向けた新しい巨大環状錯体の合成についても、予定通り進捗している。 この他、巨大複合システムの活性中心の構築に向けて、当初の予期していなかった新しい発見もあった。ペプチド骨格を用いて、環状のNi(II)-Cu(II)イオン配列を選択的に形成できることを明らかにし、新しい金属中心を柔軟な骨格中にデザインするための基本デザインが獲得できた。Ni(II)-Cu(II)イオン配列中、金属中心間にはペプチドのアミド基を介して効率的な反強磁性相互作用が働いていた。また、4配位中心がCu(II)に選択的に結合するため、金属イオン比に関わらず、容易にヘテロ環状金属イオン配列を形成できた。この手法は、トリペプチド環状錯体の新奇特性開拓に有効である。 以上のことから、本研究課題は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的の一つである、柔軟なトリペプチド骨格による構造設計指針の獲得には、様々なサイズの巨大空間を持つ環状錯体の創出が必須であり、今後、これらの合成にチャレンジしていきたいと考えている。 また、柔軟な骨格だからこそ発現する新奇機能の創出に向けて、柔軟な骨格構造が示す基礎特性は引き続き明らかにしていく必要があると考えている。SAXS測定の他、AFM等の他の手法を適用して、検討を行っていく。当初の予定通り、巨大空間を利用した機能開拓を進めていく他、巨大環状錯体と2020年度に開発したヘテロ環状金属イオン配列を持つ錯体の複合化など、複数のユニットの組み合わせについても合わせて検討していく予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で、当初予定していた出張を伴う共同研究や学会発表ができなくなったため、必要経費を次年度に持ち越す必要があった。 今年度のコロナの感染状況やワクチンの接種の進展状況などを考慮しつつ、出張を伴う共同研究で研究を推進する部分と、機器購入や依頼測定などで置き換えられる部分を整理して、柔軟に対応していく予定である。
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Research Products
(7 results)