2022 Fiscal Year Research-status Report
Development of Medicinal Molecules Releasing Mechanism Driven by Vibrationally Excited Prussian Blue by NIR light
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20K05543
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
中島 洋 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00283151)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フェリチン / プリシアンブルー / 包摂化合物 / 近赤外光応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
22年度は、プルシアンブルーフェリチン包摂体の内部空間にさらにニトロプルシド(NP)を取り込んだ(NP-PB@Fr)からの一酸化窒素(NO)の光放出特性の評価と放出機構に関する理解の深化に努めた。21年度までの研究により、NP-PB@Fr 一分子には、30分子程度のNPが取り込まれており、近赤外光(λ= 800 nm)照射による放出も確認していた。一方、その後(22年度)の研究により、NP-PB@Frから放出されるNO分子は、取り込まれたNPの約25%であり、残りのNO放出は、青色光(λ= 400 nm)照射を必要とした。この結果は、NPがNO放出可能な状態でフェリチン内部のPBに固定されているものの、PBの振動励起をNO放出の駆動力として利用可能と不可能な状態で存在することを示唆している。現在、PB@Frへ固定されたNPについて調査を進めており、NP-PB@Frを用いる近赤外光応答NO放出については、この調査を終えてから学術論文にまとめる予定である。 後述するように、この研究過程で、PB@FrのPBは遊離のNOによって素早く還元(FeII-CN-FeII)され、その後溶存する酸素によって徐々に酸化され元の状態へ酸化(FeIII-CN-FeII)されることを見出した。この一連の過程で、PB@Frは、青色→白色→青色への変化を示すことから、NOなどPB@Frを還元可能な物質の比色法への利用についての研究を計画している。また、計画研究から派生した近赤外光の化学をキーワードとする一酸化炭素放出物質については、その後さらに成果が得られ、「酸性水溶液で近赤外光応答性を活性化できる一酸化炭素放出物質の開発」を学術雑誌にて発表した(J.Organometallic.Chem. 2022, DOI:10.1016/j.jorganchem.2022.122578)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでの研究を通じて、当初の研究目的である「フェリチンに内包されたプルシアンブルーの近赤外光励起を用いたニトロプルシド(NP)からの一酸化窒素(NO)の放出」が可能であることを確認した。一方、放出されるNO分子の定量化を進めたところ、近赤外光照射によって得られるNOは、プルシアンブルー包摂フェリチン(PB@Fr)に取り込まれたNP分子数の約25%にとどまり、NPの光分解を伴う可視光照射により、未反応のNPよりNOが放出されることも分かった。こうした性状は、研究当初には想定しておらず、現在もその原因解明を目的とする研究を進めている。このため、研究の進捗状況は、22年度当初の予定に比べやや遅れているが、今後得られる知見をもとに、近赤外光照射によって、より効果的にNP放出が可能なPB@Fr包摂体の早期の実現を目指す。 研究成果の概要でも述べたように、上記性状の原因解明を目的とする研究過程でNOがPB@FrのPBを素早く還元し、FeII-CN-FeII状態を生成することを見出した。中性溶液中のフェリチンタンパク質表面は負に帯電すること、またフェリチンへのイオンや分子の主な浸入経路とみなされているタンパク質チャネル内には、グルタミン酸残基側鎖によって負に帯電する部位がことから、PB@Fr内部空間へのアニオン分子の浸入は、静電的に抑制されることが分かっている(NPをPb@Frに浸入させる際には、反応溶液をpH 4に調整し、タンパク質の負電荷を中和している)。従来のNO検出では、化学的、電気化学的ともに硝酸イオン、亜硝酸イオンなど、還元性陰イオンの妨害を受けやすいことが知られている。Pb@FrをNO検出に用いることができれば、これら陰イオンのPBへの接近が抑制できるため、NOを選択的に検出可能な物質の開発につながる可能性があり、本研究の派生として予備実験を計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
22年度の研究で明らかとなった近赤外光の照射ではNOを放出できないニトロプルシドの原因解明については、「フェリチンタンパク質の内部空間に取り込まれたNPのうち、PBへの配位によって固定されるものとタンパク質内部表面との静電的な相互作用によって固定される両者が存在し、前者のみがPBの振動励起に応答してNOを放出する」を作業仮説として研究を進めている。タンパク質の外表面に静電的に固定されたNPは、反応溶液を脱塩カラムで処理することにより分離することができた。また、タンパク質内部空間に存在するNPを溶液に露出させて同定する手法を検討した結果、NPを取り込ませた複合体(NP-PB@Fr)をプロテアーゼで部分的に加水分解することで、分子量約4,000DaのペプチドフラグメントにPBを結合したものが得られることが分かってきた。現在、このプロテアーゼ処理で得られるPB結合ペプチドフラグメントを対象に、タンパク質内部に取り込まれていたNPの定性的・定量的解析を進めている。この解析を終えた後、「PBの振動励起を駆動力とするNP-PB@FrからのNO放出」を学術論文に報告する予定である。その後、前述の問題解決のために22年度に実施できなかった計画研究(NO放出機構解明で得られる知見を基盤とする他の分子への熱反応の応用)を進める。 22年度の研究過程で見出した遊離NOによるPB@Frの還元反応については、PB@Frを利用するNO選択的な検出材料への展開を見据え、予備実験を時間の許す範囲で実施してゆく。
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Causes of Carryover |
22年度当初の研究において、研究計画では全く想定していなかった実験結果が得られ、その原因解明のために22年度の研究時間多くを割き、実験計画に遅れが生じた。23年度では、この遅れを取り戻すこと、そして研究成果の最終報告のために予算を使用する予定である。
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