2020 Fiscal Year Research-status Report
典型金属イオン含有異種多核高原子価窒素錯体の合成と電気化学的窒素固定法の開発
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20K05545
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Research Institution | Aichi Institute of Technology |
Principal Investigator |
梶田 裕二 愛知工業大学, 工学部, 教授 (60397495)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 窒素固定 / 錯体触媒 / 典型金属イオン / 窒素錯体 / クロム / バナジウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、申請者が所属する研究グループで開発された高原子価二核窒素錯体のプロトン化反応において、還元剤に含まれるアルカリ金属イオンの種類により、生成物であるアンモニアの収率が大きく変化することに着目し、アルカリ金属イオンが窒素のプロトン化に及ぼす影響について検討するものである。 研究1年目では、申請者が開発した、嵩高い置換基をもつ窒素錯体に、アルカリ金属であるナトリウムおよびカリウムを反応させ、当初の予定通り、新規のアルカリ金属付加体である窒素錯体を4種類合成することに成功した。これらの新規錯体の結晶構造は、単結晶X線結晶構造解析によって全て決定された。合成した全ての錯体は、クロム(III)イオンが一電子還元されたクロム(II)イオンをもち、クロム(II)イオンとアルカリ金属イオン(Na+もしくはK+)との間にend-onモードで架橋配位した窒素分子をもつ錯体であった。これらの錯体のN-N伸縮振動をIRスペクトルによって評価した結果、全ての錯体において1783から1813cm-1の範囲に観測された。これらの値は全てフリーの窒素分子のN-N結合よりも低エネルギーにシフトしており、大きく活性化することに成功した。これらの錯体の1H NMRを測定したところ、全てC3対象を示すスペクトルを示した。また、23Naおよび39K NMRスペクトルを測定したところ、一種類のみピークを観測することができなかったが、他の錯体では全て1種類のみのピークを観測した。これらの結果は、アルカリ金属で還元した錯体は、溶液中では全てCr-N2-(AM) (AM: NaまたはK)という中心構造をもつ錯体が生成しているということを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究1年目は、新型コロナウィルス感染拡大防止を目的とした対応をとる必要があったため、当初の研究状況とは大きく異なった状況となり、実際の実験時間を十分に確保することができなかった。また、共鳴ラマンスペクトルなどの県を跨ぐ必要のある外部への測定依頼も1年間全く行うことができなかった。その様な状況の中、本研究を遂行する上で重要となるアルカリ金属イオンが付加した窒素錯体を新たに4種類合成し、それらの構造決定と分光学的特徴を明らかにすることができた。そのため、本研究の進捗状況としては新規化合物の合成については順調であり、合成した新規化合物の同定についても、本学では不可能な測定などについては遅れを生じているものの、総合的には概ね順調であると評価した。一方、本研究を行なっている間にとても興味深い結果を得ることができたので、以下に記する。 アルカリ金属イオンが付加した窒素錯体は、全て中心金属イオンが一電子還元され、II価の状態であった。中心金属イオンがクロムの場合、このII価の状態に酸のみを加えるとヒドラジンのみが生成し、還元剤と酸の両方を加えると、アンモニアとヒドラジンの両方が生成した。この結果は、中心金属の酸化数によって得られる生成物が異なってくることを示唆していると思われる。本結果は、クロム(III)イオンを用いた窒素固定の反応機構における反応中間体の推定に対して重要な知見を与える共に、窒素固定において、生成物を選択的に合成することができる触媒の開発に対しても重要な知見を与える。ただし、これらの生成物の収率は大変低く、現在はまだ1%程度であるため、最適な反応系の構築も必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究2年目も研究1年目と同様に窒素分子を最も活性化できる典型金属イオンの探索を行うため、アルカリ金属イオンだけでなく、マグネシムイオンやカルシウムイオンなどのアルカリ土類金属イオンや、アルミニムイオンまで幅を広げ、これらの金属イオンが付加した4種類以上の新規窒素錯体の合成を行う。合成した錯体については、1年目と同様の測定を行い、酸化数、イオン半径、構造、電子状態の比較から遷移金属イオンおよび典型金属イオンの窒素配位子への効果を明らかにする。必要であれな、DFT計算により詳細な電子状態を明らかにする。マグネシウムイオン以外のアルカリ土類金属イオンや、アルミニウムイオンを用いた窒素錯体の合成例は非常に乏しく、合成に困難が予想される。そのため、本ステップの研究期間は研究2年目および3年目の合計2年間とする。また、1年目に行うことができなかった外部への依頼測定についても、新型コロナウィルスの感染状況とそれに関わる社会情勢を踏まえた上で、測定可能と判断された場合には、速やかに測定を行う。これについては測定を依頼している兵庫県立大学の方にも適宜連絡および調整を行なっている。 研究の4年目である最終年度は、当初の予定通り合成した異種多核高原子価窒素錯体を用いた電気化学的窒素固定法の開発と実現に向けての課題を明確にする。
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Causes of Carryover |
2020年度に開催が予定されていた学会が、新型コロナウィルス感染拡大のために中止となり、その旅費として使用する予定であった分の金額が残額として計上されました。中止された学会は2021年度に延期されたため、その際の旅費として使用する予定です。本学会は5年毎の開催のため、翌年度(2021年度)分として請求した助成金と合わせて使用します。
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Research Products
(3 results)