2022 Fiscal Year Research-status Report
Making and characterization of one-dimensional nanochannel assembly for 3D-printed POCT chips
Project/Area Number |
20K05560
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Research Institution | Toyama Institute of Health |
Principal Investigator |
山下 智富 富山県衛生研究所, 化学部, 主任研究員 (10416092)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 流路チップ / 3Dプリンタ / ポリプロピレン / 陽極酸化アルミナ / PDMS |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はポリプロピレン(PP)製の流路チップ作製を試みた。PPは、様々な溶媒に対して安定という特長を有する。しかし、安価な熱溶解積層(FDM)3Dプリンタでの造形は一般的に難しく、この方法での流路チップの作成例も少ない。PP製の流路チップ作製は、様々な溶媒を利用した液体流れ分析法への応用にも繋がるため重要であると思われる。本研究では、FDM3DプリンタとPPフィラメントで流路チップを3Dプリントした。その結果、(1)出力物のステージ上への固定化および反りの抑制、(2)出力物に隙間を生じないプリント条件設定、(3)流路を閉じないようにするための3Dモデル作成とプリントノズル動作設定など3点の工夫が有用であることを見出した。以下にそれぞれについて説明する。 (1)一般的に3Dプリントではステージ上の糊またはテープ上にプリントして出力物を固定するが、PPの場合、この方法での固定は困難である。本研究ではステージ上に両面テープでPP板を接着、その上に出力物をプリントして固定化した。また、PPは冷却時の反りが強く、プリント中に出力物の反りが生じる。この反りは正確な出力の妨げとなる。本研究では,厚いPP板を用いれば反りを抑えられることを見出した。 (2)FDM3Dプリンタではノズル先から出る糸状の樹脂で出力物を形成する。しかし、通常の条件では樹脂と樹脂の間にわずかに隙間が生じるため、流路に液体を流す用途に用いるには難点がある。そこで、本研究ではノズル先から出てくる樹脂量を増やすことで隙間を生じないようにした。 (3)ノズル移動時に流路となる箇所の上を通ると、ノズル先からPPが垂れて流路の部分に入り、流路が閉じてしまうことがある。それを防ぐために、流路層のプリント時にノズルが流路を横切らないような3Dモデル作成とプリント設定をした。 この成果については、日本分析化学会第71年会で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
親の逝去を理由とする手続きや整理に時間を要したため。また、研究以外の業務による多忙が理由で研究計画の進捗に遅れが生じた。そのため、補助事業期間を延長することとした。すでに、補助事業期間延長承認を申請して、承認済である。 申請者は、陽極酸化アルミナの一次元ナノチャンネルを積層させることによる液体クロマトグラフィーの分離カラム作製を計画しているが、これまでに数mm直径の陽極酸化アルミナ透過膜の作製法を確立しており、カラム作製に大きく近づいている(日本分析化学会第70年会で発表)。ただし、積層したアルミナ膜をパッキングしてカラム化する工程が大きな課題であり、現在、解決に取り組んでいるところである。 また、申請者は3Dプリントを用いたチップ作製法も進めている。これまでに3Dプリント製のテンプレートを用いる手法で作製したポリジメチルシロキサン(PDMS)製チップの流路径をコーティングによって縮小するという方法を発明している。この流路径を縮小したチップをヒドラジンのフローインジェクション分析(FIA)に適用したところ、試料溶液や溶媒を節約できるという有用性が示された。(2022年2月のAnalytical Science誌に掲載) そして、研究実績の概要で述べたように、様々な溶媒に対して安定なPPを素材とするチップを3Dプリントで作製する手法も確立しつつある。このように、チップ分析システムを構築するための各要素は揃いつつある段階となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後については、積層したアルミナ膜をパッキングしてカラム化する工程を進める。また、パッキングがうまくいかない状況に備えて、市販品のアルミナ膜を用いたカラム作製も同時並行で進める。そして、分離媒体である陽極酸化アルミナ膜と、3Dプリントを利用して作製したチップを組み合わせてチップ分析系を構築した後、カラムの分離度やチップの耐久性を評価する。 分離媒体となる陽極酸化アルミナのキャラクタリゼーション・細孔内環境・吸着特性評価も進めてゆく。キャラクタリゼーションでは走査型電子顕微鏡ナノ構造を直接評価。細孔内溶媒環境評価では様々な蛍光プローブ分子を細孔内に導入し、分光測定する。吸着特性評価ではカテコールアミン類について吸着実験を行いLangmuir式などの各種の吸着モデル式から液相中の飽和吸着と平衡吸着定数を計算、吸着能を概算する。 また、本研究の副産物として申請者は吸光度測定に使用可能な長光路フローセルの3Dプリントによる作製を達成しつつある。一般的に吸光セルにおいては、光路長を伸ばせば検出感度を上げることが可能となるため、長光路化によって分析系を高感度化できる。現在、フローインジェクション測定等に適用することにより、長光路フローセルの有用性を確認しつつある。この研究成果については、第53回学協会支部連合秋季大会および第83回日本分析化学会討論会で発表している。3Dデジタル技術を用いればチップ以外の実験器具を3Dプリントすることも可能であるため、今後の新規分析ツール創出に繋がる研究として応用を探索してゆく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由については、現在までの進捗状況で述べたように、親の逝去および研究以外の業務による多忙が理由である。 今後の予算の使用については、研究計画に沿って進めてゆく。物品費については、陽極酸化アルミナ薄膜作製のための試薬類、市販の陽極酸化アルミナの購入、分析システムの構築に用いる光学素子、クロマトグラフィーの部品、3Dプリンタのフィラメント等に用いる。旅費については、研究成果発表にための交通費に用いる。その他の費目については、論文投稿の際の校閲費や学会参加費に用いる予定である。
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